あなたの時間が欲しい2
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※直接表現注意



「坊……」

初めて彼の声で紡がれた名前に肩が跳ね、呼びかける声が震えてしまう。
けれど、これは一世一代の勝負時なのだと自分に言い聞かせた。
勝呂の頬に手を添えて、ゆっくりと微笑みかければ、その下でぴくりと肌が震えたのを感じる。

「ずうっと、待ってたんですよ。ええに、きまっとるやないですか」

ほんまに坊はヘタレさんやね、そう続けたら、もう知らんで、と額に口付けられた。
その首にグイッと腕を巻きつけると、もうすっかり湯冷めてしまった肌が自らの火照った肌に心地よい。
廉造はもう全てを彼に任せようと、そっと身体の力を抜いたのである。


夜間着の袷を引っ張られ、露見した胸部に舌を沿わされると、何とも言えない疼きが腰に走った。
恥ずかしさやら何やらで顔は熱いし、舐められた部分だって熱くて熱くてたまらない。
彼の動きに連動するように込み上げる何とも言えない感覚。

「っあ、く、……ん、」

息をしたくて薄く開いた唇から誤って漏らしてしまった声を自分のものだと思いたくなくて、力強く下唇を噛んだ。
けれどもそこを優しく指でなぞられ、耳元で、傷になるやろ、なんて囁かれれば、ゆっくりと口を開くほか無い。
傷になる、だなんて女でもないのに、と快楽を享受しつつ回想すれば、そう言えば、この額の傷が出来たときもそんなことを言っていたかもしれない事を思い出した。

(坊はあん時から、何も変っとらん。)

唯一変わったといえば、二人の関係くらいではなかろうか、と思うと疑問が生まれた。
彼はあの頃から廉造が好きだったのだろうか。
そうやったらえらい嬉しいやないの、だなんて思った自分が、どうにも恋する乙女のそれと被っていけない。
はははっと乾いた笑みを零した後に、けれど、と繋いだ。

(俺かて何も変わっとらん。)

自分が傷付く事に対する抵抗の無さも、それから勝呂を思うこの気持ちも。
恋する男かて、時には乙女のような思考になるんや、だなんて言い訳すると、目の前にいる勝呂を見つめた。
こういったことに耐性のある廉造はともかく、彼は女の子の身体すら触れたことがないだろう。
まして廉造は男。
一体どうしたら良いのかわからないはずだ。
眉間の皺が更に深く刻まれていて、彼が悩んでいるのがわかる。
やっぱ、坊は可愛えわと呟くと、勝呂がバッと視線を上げた。

「何を言うんかと思えば。志摩の方がかわええに決まっとるやろ」

それから至極当然のことのように真顔でそう言い放った彼に廉造は噴き出してしまう。

「な、なんやねん志摩、笑うなや!俺は本気で言うとるんや!」

「わかっとりますけど、そない真顔で言われたら誰かて笑いますよ。」

クスクスと小さく笑えばカァァッと頬を赤らめた彼はまるで照れ隠しのように下半身に指を滑らせるのでピクリと廉造の身体が反応した。

「お前は黙って喘いどれ」

そしてそう言った勝呂が乱暴に性器を掴むと状況が一転する。

「んあっ」

勝呂に言われたせいで唇を噛むことが出来ない為隠されることなくクリアに響く嬌声。
その声を聞けば聞くほど身体の奥が熱くなって、逃げ場のない快楽に押しつぶされそうだと思った。

「ふ、はあっやぁ、坊っ……」

グリグリと鈴口を指で乱暴にこすられ、かと思えば裏筋をくすぐるようになで上げられて腰が抜けてしまいそうになる。
グチュグチュと淫らな音と廉造の喘ぎ声、それから勝呂の吐息だけが和室に反響した。

「っん、も、あか、ん……い、く……!」
そんな中、絶頂の訪れを知らせる廉造の声。
頬が染まり、涙がいっぱい溜まった瞳で勝呂を見上げれば彼が無言ながら擦るスピードを上げる。

「あっ、はぁ、んん、ん、」

ビクッビクッと腰を痙攣させる廉造は、しかしどこか堪えているかのように腹筋に力を入れて吐精を拒もうとした。

「イけや」

が、勝呂の声にその努力は全て水に流れてしまう。
ぶるりと震えたすぐ後にドクドクと腹部に向けて放たれた精液は勝呂の手を汚した。
はぁっはぁっ、と短く息を吐き出しながら絶頂の余韻にぼんやりしていた廉造はその精液を舐めとる勝呂の姿を見た瞬間に意識をはっきりさせる。

「ぼ、ぼん!何してはるん!」

布団に手をついて上半身を起きあがらせれば、薄い腹筋をどろりと伝うそれに眉根を寄せた。

「何て、舐めとるだけやないか。そんな事よりはよ横なりぃ。抱いて欲しいんちゃうんか」

そんな廉造を他所に言い放った彼は舐めていた指で秘部を撫で始める。
そしてプツリと入り込んだ指に廉造の目は見開かれたのだ。

「うあ、」

グッと内壁を押し上げられる感覚に首を振れば優しく額に口付けられる。
そして一本丸々埋められたかと思えば間髪入れずに抜き挿しを開始した。

「や、あっ」

「ちょお堪忍な」

たかだか指一本であるのにもかかわらず気持ち悪くて、自分が言ってしまった事の重大さがひしひしと感ぜられる。
抱かれる、ということはすなわち今指一本でも苦しいそこに勝呂のそれを挿入されると言うことなのだという至極当然であることを初めてリアルに思い描いて、顔から血の引いた。
しかし、それに気付いた勝呂が再度額に口付けようとした時に変化は訪れたのである。

「ひああっ!……っ、っ、」

ぐいんと元気の無かった性器がたちあがり、腰が震えた。
一体何が起こったのかいまいち理解出来ないが、目の前が真っ白になったことと、今までで一番女性的な声が出てしまったことはわかる。
ばっと投げ出してあった手を口に当てて押し込めるが吐息は漏れてしまう。
廉造はこれほどの快楽なんて知らなかった。
あまりに大きな快楽のせいで体内で処理しきれない。

「みっけた。」

そんな廉造に勝呂はニヤリと笑うと今度はそこばかりを指で擦り上げてくるではないか。

「んっ、はっ、うあ、っむ、んうっ、」

バチバチと目の前で火花が飛び散る。
腰も足も震えて仕方がない。
いつのまにか増えた指も今一体どれだけ入っているのかは分からないが、精液と勝呂の指がいやらしい音を奏でているのが聞こえて居たたまれなかった。

「そろそろ、ええかな」

と、その時勝呂がぼそりと何かを呟き、そして秘部から違和感が除かれる。
ずくん、と重く痺れたそこは、ヒクヒクと収縮して落ち着かない。

「志摩、」

そして勝呂に呼びかけられた瞬間、疼きは最高潮を迎えた。
切なくて、快楽が欲しくてたまらなくて、もうなりふり構っていられない。

「坊っ……も、辛抱ならんのやっ……挿れてくださいっ……」

ぎゅうっと浴衣の袷を握ってそう叫べば、その声は思っていたものよりずっと甘くて切ない響きを持っていて戸惑った。

「言われんでもそんつもりや」

「ん、ああっ」

それからは一瞬の事。
勝呂が素早く取り出した性器を廉造の秘部に押し当て、穿つ。
いつだって何だかんだ慎重で、相手をさり気なく気遣う彼が一気に押し入ってきたのだ。
廉造は何よりもその事に驚き、頬が綻ぶのを止めることが出来ない。

「ふふふっ、」

クスクスと笑う廉造に勝呂は眉根を寄せた。

「なんやいきなり。」

そしてズッと性器を抜きながら問う。

「っん、は、やって、坊が余裕ないん珍しいやないですか」

それから再度押し込まれたそれにああっと声を上げ背をしならせる。

「そんなん、お前がエロいからに決まっとる」

その抜き挿しは最初こそゆっくりであったが、時間と共に早まり廉造を追い立てていく。

「っあ、は、知っと、りますっん、」

グチュグチュと勝呂と廉造の体液が混じり合っている音が、パン、パンと肉と肉がぶつかり合う音が二人の言葉を邪魔した。

「っん、は、ね、坊……名前、呼んで」

袷を持っていた手を首に回して、強請るような甘い声を絞り出せば勝呂のそれが成長した感覚にぶるりと震える。
そして腰が痙攣しているのが分かった。
絶頂が近い。

「廉造」

そんな中囁かれた低音がさらに絶頂を近づけた。
秘部が今まで以上に収縮する。
抱き付いた腕までも震えて、どうしようもない。
そして、気がつけばどちらからともなく口付けをしたのだ。
いつの間にか伝っていた涙がしょっぱい。
けれど、先に合わせた時よりも、ずっとずっと甘かったのだ。



あなたの時間が欲しい

110628



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