嫉妬の炎に身を焼かれた男は今、何を思う
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※先天性女体化注意
※モブ注意

「ほんますみません、坊、子猫さん。今日はちょお予定あるんやわ。」

そういうと志摩は駆け足で遠ざかっていってしまった。向かう先へと視線を移すと、そこには隣のクラスの人間。以前志摩が谷和原くん、と呼んでいただろうか。谷和原くんが手を振ると、スカートを翻しながら彼女は彼へと駆け寄り何かを話している。やがて、二人は肩を並べて勝呂たちの視界から消えていった。
えらい、幸せそうですねぇ。そう微笑む子猫丸に、せやな、と一言だけ返す。
頭痛が酷い。
勝呂が頭をさすれば、坊、頭痛いんでしたらお薬飲まはった方がええんちゃうやろか、と隣から声が聞こえたが、今度は返事をしなかった。
代わりに奥歯をギリリと噛み締める。ほんまに、無理せんとって下さいよと言う子猫丸は、言葉とは裏腹に諦めたような表情を浮かべていた。彼は分かっているのだ。勝呂の頭痛の根元を。

「ねぇ坊。そろそろ、前を見はって下さい志摩さんのあれは、色々考えはった結果ですやろ」

そっと諭すように告げられる。けれど勝呂は即答するのだ。

「なんの話や」

と。まるでお前は入ってくるなと言わんばかりの気迫に子猫丸は溜め息をこぼした。
そんな子猫丸を横目に勝呂は静かに考え始める。始まりは確か、志摩の一言だった。
「ねぇねぇ坊、谷和原くんいう方しってはります?」

頬を染めて言う彼女にまたかと返したのは記憶に新しい。なんせ、彼女は無類の男好きだ。わぁあっ見て下さいよぉ、めっちゃかっこええ!だとか、あああああん人!あん人こん間同じ車両乗ってはった人やぁ。やっぱイケメンやなぁ。彼女いはるんやろか。居らんのやったらめっちゃ付き合って欲しいわぁ、なぁ坊もそう思わはるやろ?だとかいった類の台詞は耳にタコが出来るくらい聞いている。そして同様に無類の女好きでもあった。可愛らしい女の子を見れば声を掛けていく。何ナンパしとるんやと言えばやってかわええんやもんと膨れる有り様。そう言う点ではただのミーハーと言っても良いかもしれない。
そんな彼女だから、今回もどうせその類の一つだと思ったのだ。だから、谷和原くんめっちゃええ人なんですよ、坊。うちらのこと、悪く言わはらへんの。ニコニコ笑いながらそういう彼女の話をそうかそうかと聞き流していたのである。それなのに。

「谷和原くんと付き合うことになりましたん。」

一応、ご報告しとかんとあかんかなって思いまして。
そう幸せそうに言う彼女。勝呂は頭に雷が落ちたような感覚に捕らわれた。付き合う、付き合うとは何だ。どういうことなのか理解出来ない。勝呂は心の中で何度も問いかけたが、口から零れたのは一言だけだった。

「そぉか」

その言葉に何故か彼女は泣きそうな顔をしてはい、と答えたのである。こちらが泣きたい気持ちだと、叫んでやりたかったが、やめた。なんだかんだで臆病なのだ。勝呂竜二という男は。
そんなこんなで、もう何ヶ月が経過しただろうか。志摩家の人間、という枠組みの彼女が、自分の物ではなくなってしまってからは。否、最初から、きっと竜二のものなどでは無かったのだ。驕りだったのだろう。
それでも、竜二は思うのだ。
自分のものだと思っていた人が、自分のものではなくなる、というのは、なんとも悔しいことではないかと。
略奪されたのだと、恨んだって仕方がないのではないかと。
ぐしゃり、と手の中にあった紙を握り込めば、ひっと子猫丸が悲鳴をあげる。
きっと、これは神様から与えられたら試練なのだと、言い聞かせた。
そうしてしっかりと彼の後ろ姿を見据える。
憎しみの炎を瞳に宿らせて。


嫉妬の炎に身を焼かれた男は今、何を思う


111222



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テーマ「人外ファンタジー」
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