被搾取者の受難
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※直接表現注意
※燐様インキュバス設定


「おい、志摩。なぁ、志摩ってば」

ガクガクと揺さぶられる感覚に慌てて意識を浮上させる。
けれども合わせた瞼の隙間からはこれっぽっちも明るい光は入り込んでこないので、遅刻に関するエトセトラではないと安心した。
となればもう自分が起こされる理由は一つしかない。
しかも先程から聞こえてくる声には心当たりがありすぎるのだ。

「も、俺今日は無理やて」

寝起きの声でもごもごと告げれば、彼がむっとしたであろう事が空気越しに感じられる。

「俺は腹減ってんだよ。よこせ」

その不機嫌はどうやら空腹からのものだったらしい。

「腹減っとるんやったらお肉さんでも食べぇや」

ゴロンと寝返って冷たくそう告げれば、こんどは勢いよく掛け布団を剥がれてしまった。寒いやんか、止めてぇなと口元でゴニョゴニョ言えば耳元に唇を寄せられる。

「やだ。お前のが一番美味いんだよ」

そして、この言葉。これが愛の告白で、相手が女の子だったらどれだけ良いだろうか。
廉造はあまりの残念さに嘆きそうになる。その上、彼は普通の人間でも、ただの悪魔でもない。
インキュバス、別名淫魔。それが彼に押されたもう一つの烙印であった。
サタンの血が覚醒してもなおそれはなりを潜めていたのだが、つい先日ついに覚醒してしまったのである。その時たまたま近くにいた廉造が、無理やり栄養摂取と繁殖――即ち精液搾取及び子作りに協力させられたのだ。勿論廉造は男であるから、子どもは授からなかったが。
それからしばらくは彼の弟である雪男の調合した擬似精液を摂取したりサタンの力で抑えつけたりしていたのだが、どうやらそれでは治まらなかったらしい。
本人曰わく異様に腹が減るのだそうだ。
擬似精液もサタンの力も、ほんの少しの足しにしかならず、謂わば三時のおやつ程度で、腹持ちもよくない。
けれども、廉造のを飲んだ後は満腹感に包まれて、ようやく飢えが治まるのだ。
そう熱弁されて、あまり使わない脳みそが容量オーバーを起こしてぼんやりしている間に無理やり二度め関係を持たされてしまったのである。
それからというもの、燐と廉造は関係を持ち続けている。だって気持ち良い。自慰では得られないような感覚が廉造を包むのだ。

「ちょお、奥村く、待ってなぁっ!」

ズルリと剥かれてしまったパジャマ替わりのジャージにこんどこそ本格的に意識を浮上させる。開いた瞬間にバチッと合った瞳。そこからは確かな情欲が浮かんでいて、もう耐えられるはずがなかった。
だって、淫魔の誘いを断るなんて、初めから無理な話なのだ。

「早く飲ませろ」

そしてそう言うが早いか廉造の性器をパクリとくわえ込んだ燐の口内の温もりに目の前が真っ白になる。

「ん、……や、あっ」

それからはもう一瞬。
筋をなぞられ尿道を擽られ、思いっきり吸われる。瞬く間に上り詰めさせられて、一度目の絶頂。

「うぅっ……ふぅ、あっ」

ゴクリ、と当然のように飲み込まれたそれにカッと頬を染めた。いつになっても慣れないのだ。自分のそれを臆することなく飲み込み、舌なめずりをする姿など、慣れる日は永遠に来ないだろう。

「やっぱお前のうめぇわ」

「さいですか……」

クッタリと布団に全体重を預けた廉造は再度目を瞑る。
いつだって燐にされた後は一人でする時よりも随分搾り取られたような感覚になるのだ。いや、実際そうなのだろう。淫魔の力というやつだろうか。廉造は淫魔について良くはしらないけれど、きっと媚薬のような効果をもたらす何かを分泌するなんて容易いのだ。

「ん、ううあ!?ちょ、奥村く、何!」

と、その時再び性器に違和感が走る。異な、違和感というよりはつい先ほどまでの感覚がよみがえった、という方が正しいだろうか。

「おかわり」

「はぁ!?ややて!俺、も、無理!」

「まだいけんだろ」

「っあ……ん、う、ややぁっ」

ジュブ、と淫靡な水音をわざとらしく立てながらまた全体が喉奥まで飲み込まれる。
「あっ……やっ……っ!」

と、その時秘部に違和感。グニグニと指が表面をなぞる感覚に目を見開いた。
まさか、そんな。廉造の心に疑問が広がる。
第一ここは一般寮の一室である。
隣というほど近くでは無いにしろ、ルームメイトがすぐそこで健やかな寝息をたてているのだ。そんなところで、まさか最後までするなんて、考えられない。
というのに、燐の指はいとも簡単に入り口を解し終え、一本目を挿入し始めたのだ。

「やや、っん、他ん人、おるやろっ」

「大丈夫だって」

「っあ、は、大丈夫や、ないっ!」近頃では後ろの受け入れ体制も整ってしまっているらしい。次々と新しい指を挿入されては拓かれる。

「大丈夫、声は漏れねえようにしてやっから」

そうして最後に耳元でそっと囁くと、もう十二分に立ち上がった熱い性器をグリッと押し当ててきた。

「っあ、は……んんんんぅ!」

入ってくると同時に口を塞がれる。
呼吸もろとも燐に吸い込まれたのだ。
ただでさえ、いつまでたっても慣れない内臓を押し上げられる感覚に息ができないのに、さらに口も塞がれてしまってはどうしようもない。

「ん……うぅっ……んあ」

どんどん頭が真っ白になっていく。遠くで水音が響いているのが聞こえるが、律動による振動と快楽、それから酸欠でそれどころではなかった。気が付けば足は燐の腰に回っていて、知らず知らずのうちに腰を振っていた。

「やーらし」

彼は、口付けの合間にそういって笑う。
けれど廉造はそんな言葉に反応するほど余裕はない。
ガツガツと貪られるような律動は、的確に廉造の良いところを狙い当てるから、すぐに弾けてしまいそうになるのだ。
ぐっと拳を握って耐えるけれどもそれに気が付いた燐が口付けを止める。
そうして片手を廉造の口元に押し付けると、性器を擦りあげ始めたのだ。

「ああっ、あっ、ふ、う、ぅ、あああっ……っ!」

途端精液が燐の掌へと吐き出される。そうして遠のいていく意識の中で、ぽつりとまたなと囁かれたのを聞いた。


被搾取者の受難


111109



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