絆される
―――――――




※直接表現注意

一体誰がこんな未来を想像出来ただろうか。

「ん、はぁ、やめえ、って……!」

「いやや。」

ストイックで有名な兄こと柔造が、自分の足元に跪いて、足を愛撫するという、信じがたい風景を見下ろしながら廉造は必死にもがく。けれどもそうやって脚をばたつかせると、膝より少し上にある布がはためき、下着が現れてしまい、柔造の口角はより吊り上げられた。

「絶景やで、廉造」

にやにやとにやけた顔を隠そうともせず言い放つ柔造。そこに何時もの弟思いの面影はほんのこれっぽっちも見当たらない。ただただ欲望に操られた雄の表情が廉造を見上げているのだ。

「あく、しゅみっ……!」

脚と脚に挟まれたスカートを思いっきり抑えつけて睨みつけても彼のにやけ顔は治まらない。

「何や、誉め言葉か?」

それどころかこんな言葉を投げかけながらより高くにへと脚を持ち上げようとするのだ。

「誉めとらんわ、アホっ!」

それにより更にめくれるスカートを憎らしく思いながら、女性はいつもこんな危険と隣り合わせの状況でスカートを履いているのかと変な納得をしそうになって、いやいや、とかぶりを振る。この状況は男だとか女だとかそういったものを超越した有り得ない出来事だと。

「もとはと言えばお前が悪いんやで?」

そして廉造はこの柔造の言葉に、自らの犯したミスと努力を怠った過去を強く反省したのだ。
というのも、廉造は先日行われた中間テストにて、志摩家史上初めてである、赤点、を取ってしまったのである。アホだアホだと言われている金造でさえ終ぞ取ることの無かった赤点を。それも一教科ではなく三教科も。
これには勉強に対して放任だった両親も目を瞑ってはいられない、と二人は密かに相談し、柔造へ頼み込んだのだ。
廉造が二度と赤点を取らないように何とかしてやってくれないか、と。
そして、前代未聞なその点数に柔造もはいと頷いたのだ。

でも、と廉造は思う。
どう考えてもやはり彼の行動はおかしいのではないか。
きっと両親が言った「どうにか」は十中八九こんな事ではないだろう。

「たしかにっ……んっ、赤点は、ぁっ……その……俺があかんかったけど!でもこれは絶対可笑しいて!」

そう大声で異議を唱えれば、柔造は一瞬脚を舐める動きを止め、少し考えるような素振りをする。
そして、少し厳しい顔を作ると、柔造は否定を許さないという意思を露わにした声色で言ったのだ。

「お前……自分が何やらかしたんか分かっとるんか?」

びくりと身体を跳ねさせたのは廉造。

「わかっ、とるよ……?」

それでも恐る恐るそう告げれば、なら、と柔造は続ける。

「せやったら、俺に口答えなんぞ出来るような身分やないことも、分かるよな。」

その言葉の背景にある意味を悟った廉造は今度こそぐうっと黙る他無かった。
だって本当に自分にも非があるのだ。アホだアホだと常日頃からからかっているあの兄ですらをも凌駕してしまった。アホは自分だったのだ。
とはいうものの、だからといって柔造のしていることが正しいとは微塵も思わない。でも、自分はこの兄に抵抗してはいけないのか、いや、良いだろう、しかし抵抗したこぢ更に罰を与えられるのも嫌だ、あっいやちょっと待つんだ廉造、お前は絆されてるのではないかーー。
などとぐちゃぐちゃ考えていたが為に無言になってしまった廉造の姿を、勝手に了承したのだと判断した柔造は離していた足首を掴み再度持ち上げる。

「うわ、あっ、なん!?」

いきなりの事だった為にバランスが崩れてしまった廉造は慌てて自らの重みを支えるべく後ろへと手を着いた。
それを見届けるか見届けないか、といったタイミングで柔造は廉造の足へと口付けをするから、廉造はそのままびくりと震えたのだ。

「ひっ、あ……っ」

こんどのは恐怖ではない。後に訪れるであろう快楽への期待からくる震え、である。何だかんだと言いながらも、先ほど足を舐められていた時だってしっかりと感じてしまっていたのだ。ねっとりと指を舐めるそれを、どうしても性器を舐め上げるそれへと変換してしまう。欲望が、熱い。

「廉造、パンツ丸見えやで?」

「っ、ややぁっ、見んとって……あっ」

くいっとスカートをめくり上げられかけて、空いていた方の手でその行動を阻止しようと躍起になるが、爪と肉の間を舐められた瞬間に手から力が抜けた。
ぞわりと何かが駆け上がるのを感じながら、下着は柔造の目下へと晒されてしまったのである。

「いややとか言っとったくせになぁ」

そうなればボクサーパンツの膨らみだってバレてしまうわけで。

「んぁああっ!」

「なんや、めっちゃ湿っとるわ」

グイッと乱暴に握られた性器に背を反らせる。そのまま上下に扱かれるとたまらなくて目を伏せた。
ヌチヌチと淫猥な乾いた水音が部屋に響き渡る。

「あっ……んっ、ん……ふ、うぅ」

その時に零れた声があまりに快楽を含んでいることに気が付き、スカートを抑える為に伸ばした手を口に当てる。そうして兄の所業から目を逸らすべく瞳を閉じてから後悔する。
乾いた音は大きなものとなって廉造を襲う。握られた性器は熱くて溶けそうで、今はもう舐められていない足は大気に触れてやけに冷たかった。

「あー……あかんわ」

「っん、んあっ、は……なん……?」

「廉造のせいやからな」

と、次男の切羽詰まった声が降ってくるではないか。やから何が、という問い掛けは言葉にならず、そのまま柔造の口へと吸い込まれる。

「ん、うぅ、ふぅあっ……んうううっ」

それが口付けのせいだと認識できた時には既に柔造の舌は廉造の口内を駆けずり回っていた。
口内を全て愛撫するようにと丁寧に沿わされる舌は気持ちが言い。時折ちゅっと舌を吸われると腰が震えた。

「ん、やう……んぅううっ!?っぁあ!」

と、その時。
股間に何やら熱いものが押し付けられたと思った途端、力強く性器が擦られはじめてたのだ。
目を開けば至近距離にある柔造の瞳。キスの間中ずっと開いていたのだろうか。そう思うと廉造の身体はカッと高まる。全部、全部見られたのだ。こんな至近距離で!感じる顔も堪える顔も、全て。恥ずかしい。恥ずかしすぎて死んでしまえそうである。

「んあ、はっ、じゅ、にっ」

漸く離された唇同士は銀の糸をひく。それを辿るように再度口付けられたら、もうたまらなかった。
性器が熱い。どこまでが相手の熱で、どこからが自分の熱かなんて分からない。一緒になって溶けてしまったような感じさえする。
ふと柔造の瞳を覗き込めば、その漆黒には自分の姿が映っていた。
快楽に飲み込まれた瞳をした、自分の姿が。


絆される


111104



―――――――



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -