恋愛指南 1
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※メフィ→廉前提アマ金
※アマ+廉はお友達設定

またか、そう思いながら呼び出された先は、やはり理事長室だった。普通ならば理事長に呼ばれることなどめったに無いはずなのだが、先日ひょんな事からメフィストフェレス郷にいたく気に入られてしまった廉造にとってはこれが既に日常の一部になってしまっていた。

「何の用でっしゃろか」

すぐにメフィストの元へと訪れられるようにと渡された鍵で複雑な学園を一飛びし、理事長室前で一人ごちる。
しかし、考えたところで奇天烈なメフィスト。どの選択肢だって可能性は未知数なのだ。これでは埒があかないと悟った廉造は、本人から聞いた方が幾分も早いし面倒ではない、とノックもそこそこに扉を開いた。だが、そこ廉造を呼び出した筈のメフィストの姿はなかった。
かわりに、床に寝そべりながらどこから拾ってきたのか分からない女性雑誌を読みふけっている悪魔が一人。

「何やってはりますの、アマイモン君……」

そう、その悪魔こそがこの地の王アマイモン。この学校の万全に整えられた結界はたとえ彼のような上級悪魔であっても破れない代物である筈なのに、何故かよく姿を見せる王様である。

「こんにちは、れんぞー君。ようやく来てくれた」

アマイモンは廉を確認すると、パァァッと花を撒き散らした。とは言っても彼は無表情であるから、あくまでそんな気がした、程度なのだが。

「どうしはったん?アマイモン君が俺呼ぶんなんてえろう珍しいやん」

彼が自分に危害を加える気はないことはわかっていたので、ゆっくりと近づく。
さすれば彼はいきなり立ち上がると、持っていた雑誌を目の前にズイッと差し出してきたのだ。

「れんぞー君、これは、如何なるものですか?」

そのページにはでかでかと『恋愛特集』と記されていたのだ。
そう、恋愛。女性誌なんて滅多に読まない廉造だが、女性の好む雑誌にはいつだって恋愛特集が付き物だというのを知っている。

「なにて、恋愛の特集に決まっとるやんか」

恋愛かぁ、ええなぁー……俺もかいらし女の子と甘酸っぱぁい青春したいわ。
なんて、考えていたところで、疑問が生まれた。目の前の王様は首を捻ったままなのだ。
まさか……いや、もしかして!

「って……もしかしてアマイモン君、恋愛知らんの?」

「だから、如何なるものかと聞いているじゃないですか」

きょとんとした顔の彼を前に次こそ大声をあげてしまいそうになるのをぐっと堪え、

「恋愛かぁ……ううーん、」

そして大いに悩んだのだ。
恋愛とは、という議題は廉造の得意分野である。むしろ、その事ばかり考えたり調べたりしていると言っても過言ではない。
しかし、それらの知識はインターネットで見たり人伝いに聞いたりしたものばかりで、実際に自分で試したことなどなかったのだ。所謂耳年寄りというやつである。
そんな自分が、何も知らない彼に不確かな情報を与えても良いものか。廉造にはわからなかった。
そして、そうして考えている内に、最早持病とも言えるようなあの言い表しようもない倦怠感に見舞われ、もう何だかんだと考えるのが面倒になってしまう。
そこでふと思い浮かんだのが、兄たちの顔であった。
彼らは年上であるし、何よりそういった経験も豊富だ。自分よりもどう考えたって適任に決まっている。
そう思い立ったら即行動。廉造はルーズリーフを取り出すと、さらさらと住所を書き出して彼に手渡した。

「なんですか?これは。」

それを受け取りつつも訝しむ彼の肩をポン、と叩く。

「これは俺ん家の住所や。ここに、俺の兄貴居るさかい、そん人等に聞いた方が俺よりええ感じに教えてくれはると思うし……」

「ここに“恋愛”の先生がいるのですか?」

「せやなぁー。俺よりは上質なセンセが居るで」

うんうん、と頷きながら言ってからあっと付け足す。

「でも、一つ約束!俺の大切なもん壊さんといてな」

ただ、どれだけ仲良くやっていても相手は悪魔である。軽々しく住所を教えてしまったが、よくよく考えればあまり宜しいことではなかったかもしれない。しかしそれはもう後の祭りである。住所は既に彼の手の内にあるのだから。それでも、せめて兄や明陀の人々に危害を加えないようにと約束を取り付ければ、彼は少し考えた後にコクリと頷いてくれた。

「……はい。ありがとうございます、れんぞー君。」

そうして立ち上がると窓から身を乗り出し、そして次の瞬間、廉造の視界から消えたのだ。

「相変わらず行動が早いお人やなぁ」

そうしみじみと言ってから部屋を出るべく大きな扉へと向かうと、次は目の前に何やら白煙が湧き上がる。「おやぁ?これはこれは珍しい顔ですねぇ!どうして君が、ここに?」

どうやら、部屋の主のお戻りのようだ。
1日に二度も上級悪魔に出会うなんて、なんとついていないのだろう。

「ちょお野暮用どす。そろそろ塾始まらはるさかい、失礼しますえ?」

あまり関わりたくない、そう思い顔面に笑みを引っ付けてそそくさと立ち去るように言えば、ふぅんと意味深な納得をされてしまった。

「また、いつでもおいでなさい」

そして微笑を含んだその言葉を背中に受けながら、廉造はその場を後にしたのである。


恋愛指南



110908



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