ごろん、と二人して寝転がったベッドの上。こんな風に二人でのんびりするのは初めてだと燐は思った。
本当ならば今日は同室である雪男は任務に行っており、「兄さんは絶対に付いて来たらダメだからね。」と言われた燐は一人寂しく旧男子寮でお留守番の予定だったのだが、「若先生が寮から勝手に抜け出さんよう、奥村くん見張っといてって言わはって」と言った廉造がわざわざ駆けつけてくれたことにより、一人寂しい夜を過ごさなくてすんだのである。
「なー志摩ぁー」
「どないしはったん?」
「好きだぁー」
すぐ側にある背中に抱きついて言えば、腕の中でくるりと反転した廉造がクスクスと笑う。
「おーきになぁ。俺も奥村くんのこと好きやぁ」
そうして少し顔を赤らめながら首に手を回してきた彼の額にキスを落とせば、くすぐったいとまた笑った。
「すっげー好き、大好き」
「俺の方が好きやもん」
「いーや、絶対俺のが志摩のこと好きだ」
「絶対俺やで」
「俺だって」
「俺や」
「俺こんくらい好きなんだぞ!」
「俺かてこーんなに好きやもん!」
「嘘、やっぱり宇宙ぐらい好き!」
「むっ、俺は宇宙の三倍は好きや」
なんて不毛な言い合いの後、ふと静寂が訪れる。
お互い真っ赤な顔で、それでも目だけはしっかり合わせながらの静寂。
それを破ったのは他でもない二人の笑い声だった。
「何やってんだろな」
「ほんまや、あほらし」
クスクスと笑いながらお互いに言葉を交わし、それからふと携帯を見やればそこに表示されていた時間に目を見張る。
「おい、そろそろ寝っぞ」
「んー今何時なん?」
「3時」
「げっ、あと三時間しか寝られへんやん!」
そうして告げた途端にわたわたと慌て始めた廉造の身体をギュッと抱きしめた。あと三時間もある、そう言った意味を込めて。
しかしビクンと大きく揺れた肩。突然だったから驚いたのだろうか。顔は見えないけれどきっと真っ赤だ。廉造も、燐も。
「……するん?」
控え目に、呟かれた言葉。首に回されたままの腕にキュッと力が入る。どこか不安そうに震える身体。
「しねぇよ」
そ姿に燐は静かに答えた。本当は、このまま一睡もしないで朝を迎えるのも良いな、なんて思っていたけれど。それは二人の意志が一致してこそ、である。
「たまには、このまま寝ようぜ」
身体を合わせるのなんてその気になればいつだって出来る。
ならば、こんな風にただ抱き締めあうだけの日があっても良いかもしれない。
なぁ、良いだろ、そうやって昔よく弟が出していたような甘え声を出せば、その震えは何時しか止まっていた。
「ふふ、甘えたな奥村くんはえらい珍しなぁ」
優しく頭を撫でる廉造の手はまるで子守歌のように燐を眠りに誘う。
普段はどちらかと言えば雪男やら廉造やらを甘やかす方で、こうやって他人に甘えるなんて無いけど、存外良いものかもしれない。
「おやすみ」
そうして額に廉造の唇を感じると同時に燐は眠りについたのだ。
逆転
たまには燐を甘やかす志摩だって良いと思います。
110831