この人は、本当に無防備なのだと廉造は思う。
「坊、坊。」
寝っ転がった勝呂の上に跨って、分厚い胸板に頬を摺り寄せて。
「坊、」
切ない声で呼べば、ふわりと撫でてくれるのがいけない。
もっと、もっと甘えたくなる。
殺したいほど、愛しい。
「志摩」
甘えたように呼ぶ声が耳障りだと思う反面、もっと呼ばれたいと思う。
でもやっぱり聞きたくなくて耳を塞ぐ代わりに喉元を押さえてやった。
「坊、坊……ぼ、ん……好きや……」
グッと詰まる息。それにさえ興奮を覚える自分は末期なのだろう。
何も聞きたくなくて唇をあわせればくぐもった声さえも飲み込んだ。
しかしそれすらも出来なくなる。
息苦しいはずなのに舌を器用に動かすのだ。
快楽に弱い廉造はすぐにキスに溺れてしまう。
「ん、ん、ふ……っん……」
快楽に負ければ自然と手の力は弱まって、舌の動きは激しさを増す。
少し逃げようと胸板に手を移動させたが、その前に頭をがっちりとホールドされていて逃げるに逃げられない。
「んんっ、んー、ぼ、んぅ、…す、きっ…」
「好きな相手殺そうとすな」
唇を上手くあわせるために入れ替える際に問いかけられた言葉が廉造に襲い掛かった。好き、なのに殺したい。
これはおかしな感情なのだろうか。
「せやかて、殺したなるんです……好きなんや、坊……」
抱きしめて抱きしめられて、愛されて犯されて、そんな彼の愛を独り占めしたくて仕方が無い。
だから、殺したい。
「好きすぎて、欲しくて、しゃあないんです。坊、坊、坊を俺だけにください」
ぼろぼろと、快楽だか何なのだか分からない涙がぼたぼたと勝呂の服に落ちてはしみこんでいくのをぬぐうことなく懇願すれば、彼は困ったように笑った。
「そんなもん、いくらでもやるわドアホ。せやけど俺殺したら志摩にキスでけへんようなる。せっかくお前のもんなったかて、キスでけへんのやったら他人の方がましや。」
それからそっと瞳に唇を寄せると、ぺろりと舐める。ついでに眼球も舐められると、ふるりと腰が震えた。
「それにな、志摩。お前に愛で負けるなんて思ってへん。なめんなや。どんだけ長いこと片思いやったと思っとんのや。俺かて……殺したいくらい愛しとる。けど、それと同じくらいに守りたい思ってるんや。」
その手はいつの間にか頭の後ろから頬に、腰に回っていて、いやに性を感じさせる動きで撫でるのだからたまらない。
欲望がまた顔を出す。
「今日くらい、お前をくれや、志摩。」
耳元に囁くように投げ込まれる声に全身が歓喜した。否、悦んだ、と言った方がいいのだろうか。
「今日、俺の誕生日やろ?」
頬を赤らめて、乙女のように恥らう自分は柄にも合わないだろうし気持ち悪いけれど。
「は、い……」
コクン、と酷くしおらしくなった頷きに惹かれるように、勝呂は廉造に口付けるのだ。
狂気と恋慕
正直すまんかった。
110820