※数年後
「ぼーん!!」
どたどたと遠くから駆けてくる影にふと視線を走らせると、非番の証である浴衣を纏った廉造が裾を翻しながらこちらへ手を振っているのが見える。
まだ日も昇っていないこの時間に彼の姿を見ること自体が珍しい。朝に弱い彼はいつだって何だかんだと理由を付けて出勤ギリギリまで寝ているようなだらけた男なのだ。
それなのに今日に限って早起きだなんて。それも非番の朝であるのに、だ。
これは付き合いが長い勝呂にだってどう考えたって彼に何かが起きたとしか思えなかった。
「なんや志摩、えろう早いやないか。今日何ぞあったか?お前」
ニコニコと笑みを浮かべている彼に訝しげに問いかけるとおっと驚いたように目を見開き、それからへらっと笑うと嬉しそうに口を開いたのだ。
「てことは俺が一番てことですか!」
へらへらと、今度はわけの分からないことを口にし始めた廉造に眉根を寄せる。
「だから何が」
「坊、お誕生日おめでとうございます!俺、一番乗りですよね?」
が、廉造のその言葉に一気に力が抜けたのだ。チラッとケータイの待受けを見やればそこにはしっかりと8月20日の文字。
「おん……そもそも今日誕生日て、今気づいたわ」
近頃は明陀再建に忙しくて手帳なんて久しく開いていなかったのだから、忘れていたのだって当然かもしれない。
「なんやの……ほなもうちょぉ寝れたやないですかー。」
はははっと笑いながら近づくとギュッと抱きしめられた。
「ちょ、おま、なにしてっ」
家の、しかも縁側で抱きついてくるだなんて珍しくて思わず両肩に置いた手に力を込めると痛い痛いなんて嬉しそうに笑うのだからいけない。
たまらなく、愛しくなるのだ。
「坊」
「なんや」
「プレゼント、何がいいですか?」
もごもごと勝呂の胸板に顔を押し付けながら問うその声が少し小さい。少し耳を澄ませば、いざ何がええか考えたら全然思い浮かばんで、なんて聞こえくる。きっと凄く悔しそうな顔をしているのだろう。彼は昔から、自分の誕生日になるといつだって坊が一番欲しいものを渡したいねんもん、とぐずっていたのを思い出した。
「……たまにはお前と非番がおうたらええなぁ。」
「へ?」
だから、そういう時はいつだって勝呂は言うのだ。
「そしたら一日中、志摩を独り占めできるんに」
お前が欲しいと。遠まわしに。
「そんなんでええの?」
「ええに決まっとる」
だって、いつだって勝呂は足りないのだ。志摩、という存在が。そしてどれだけもらっても、満たされる事は無い。
なぜなら志摩廉造、という人間に対する恋愛感情が収まることなんてありえないからだ。
「ふふ、そしたらめっちゃ安ぅ付きますわ。」
そして、廉造にとってもそれは同じである。
「それに、そんなん俺に対するプレゼントですえ?」
「構わん。俺が、欲しいんや」
勝呂竜士という人間に対する恋愛感情が無くなることなんて、ありえない。苦しい程に抱きしめられて、キスをして、それから愛してると囁かれたくて仕方が無いのだ。その欲求が落ち着くことなんて、これから先訪れる事は無いのであろう。
例え二人が誰かと結婚したって、子どもが出来たって、それは変わらない。
誰にだって二人を邪魔する事は出来ないのである。
いうなれば二人のそれは、永遠の愛、という奴なのだ。
それはまさしく恒久的な愛である
走り書きです。夕方にもう一回小説書けたらいいなと思いながら
110820