不安定元素
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※ぬるい性描写あり


草木も眠る丑三つ時。コンコン、とドアをノックされ、雪男は初めて時計を眺めた。
明日の授業の用意をしていたらいつの間にかこんな時間になっていたようだ。ちらりと横目でベッドを確認すると、今日も今日とて腹を出したまま無防備な顔を晒す兄の姿が視界に入りはぁ、とため息をつく。

「兄さん……ちゃんと布団掛けないとお腹壊すよ。」

そして返事など期待していない相手へ慈しみを込めた笑みを向けながら布団を掛けたところで、もう一度ノック音。
雪男はもう訪問者が分かっているとでも言うように眉根を寄せ、兄が起きたらどうしてくれると呟き、玄関へと向かった。
未だにコンコンコンコンとあまりにしつこく続くノックを止めさせるべく扉を開けば、想像したとおりのピンクがへらりと笑う。

「センセ」

そしてわざとらしい甘えた声に、これ見よがしに再度溜め息を漏らせばいやに妖艶な笑みを繕った。

「……何ですか。」

「こないな夜は、人恋しゅうなりません?」

性を思わせる声を掠れさせて、ねぇ、なんて。よくもまあこんなにころころと声が帰られるものだと呆れを通り越して感心してしまう。
そして同時にあぁこれはきっと何かあったな、と分かってしまうくらいにはこの男と長い時間をともにしているのだろう。

「仕方ありませんね。此方へ」

後ろ手でドアを閉めて、掃いて捨てる程ある空き部屋から燐が寝ている場所に出来るだけ遠い部屋を選んで入る。そして、ドアを閉めた瞬間に噛み付くようなキスを見舞われたのだ。

「ん、ふ、あっ……んう……ふっ」

ところが自ら仕掛けてきたというのに声が漏れるのは決まって廉造の口から。目下に迫る必死な表情に軽く興奮を覚えながらも舌を動かせばびくりと肩は揺れる。
全身余す所無く性感帯らしい目の前のピンクは、欲を隠そうともしない。
そのくせ本心とやらは一丁前に周りの色と同化させるのだから、曲者なのだ。

「は、……セン、セ……んう、ふっ」

なんて、その曲者と雪男はよく似ているのだけれども。
互いに同じ思いを他者に抱きながらもそれを同化させて、見えないようにして。

「どうしました?」

「んっ、す、き…っんん…」

ぼそりと告げられた言葉が誰に向いているかなんて雪男にはお見通しだ。

「僕も、好き、ですよ」

だから、雪男もまたこうやって返すのである。
首に回された、燐より細い腕を引いて、ドアに押し付けてキスをすれば、いつの間にやら腰が抜けていたのか首に全体重が掛かった。
そのままズリズリと崩れ落ちるように床に座らせてそっとズボンの前に触れるとそこはやはり熱を持っていて。

「で、今日はどうします?」

「……ほんま、意地の悪いお人や」

二人はまた、まるでぽっかりと空いた穴を埋めるかのように意味も愛も無い交わりを繰り返すのだ。


愛撫もそこそこに秘部へと指を突っ込めば、もう随分と何かを受け入れる事に慣れたそこはいやらしく絡みつく。
目の前の男がギュッと目を瞑り、震える手で雪男へとすがりつくのを見て少し優越を感じている自分に驚いた。
指を右往左往させて前立腺を探す間、必死に唇を噛み締めるその姿に興奮を覚えるのにもまた。

「ひあっ!う、ふ、んっ、ん、んあぁっ、」

そんな自分から目を逸らす為にコリコリと見つけたそこを指で弄べば、断続的に嬌声が上がる。
その声がいやに耳に心地よい。

「もう、良いですかね」

いつの間にかぐちょぐちょと卑猥な音を立てていたそこから指を引き抜き、自らの性器を取り出して馴染ませるように擦り付ければ、合わせるように腰が揺れた。

「センセっ、」

「何です?」

もどかしい、と訴える瞳。けれど、聞きたい。普段ヘラヘラと嘘を語るその声で、欲望を告げる言葉を。

「っ、もの、たりんのです……っ、いれて」

やはり快楽は偉大なもので、こんなにもあっさりと本音が吐き出される。
ご希望ならば、そういって突き立てれば、グイッと背中が反った。

「んああああっ、ひぅ、あ、ふと…い…いぁっ」

それからは、まるで知能を捨てたかのように抱き合うのみ。
求め、乱れ、喘ぎ、また求めるだけだ。

「んあ、あか、イく、イっ、ひいあああっ」

「やぁっ、まって、まってぇ…!イってるからぁっあかんて…ああっ!」

「足りひんっ足りひんよぉっ……もっとしてっ……」

「んああっ、も、壊れてまうっ…ひぅ、…壊してっ……!」

快楽には従順。
いやらしく足を腰に絡めて、もっと深く、なんつ強請る。
そんな彼を愛おしく思う気持ちは、友愛に収まるものでは無いと知っている。
けれど。

「はっ、大丈夫ですよ……この程度、まだまだでしょう?」

けれどもまことしやかに否定するほか無いのだ。
彼は勝呂が好きで、自分は兄が好き。
その前提があってようやく、この関係は成り立つ。
なんとも皮肉だが、せっかく手に入れたこのポジション。やすやすと逃すのも惜しいように思うのだ。
だから、ただ愛が欲しい、そう思っただけの、一時の気の迷いなのだと言い聞かせて愛のない行為を装う。
身体だけを満たすその行為は、楽しくなんてない。
所詮はただの慰め合いなのだ。
報われない愛と、間違った愛の。




不安定元素


ラ/ジ/カ//ル/男/女/の唄があまりに雪志摩だったので



110809



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