だからきっと彼女を愛して
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好きだ、と彼から伝えられたのはいったい何時のことだっただろうか。
とろける思考の中でそう考えながら、目の前で自分に覆い被さっている男の胸元に指を沿わした。

「ど、した…ツナシ」

すれば上から落ちてきた声に眉を寄せる。

「ね、飽きちゃった。抜いてくれないかな」

気持ち悪い、純粋にそう思った。
金髪で碧い瞳をした彼は体格的にも見た目も丁度良かったので少し残念な気持ちになるが、嫌悪感を抱きながら抱かれるのは趣味ではないので仕方がない。

「また、探さなきゃ。」

弄ばれていた身体をそのままにアドレス帳から彼の番号を消した。その時知ったのだが、タクトはその男の名前を知らなかったらしく、ディスプレイには「名無し」の文字が表示されていた。
所謂セフレ、という関係であったとしても普通は知っているのだろうけれども、興味が無かったのだから仕方がないだろう。
とにかくもう話すことは二度とない。
携帯を手放し、暖まっていたベッドから身体を退け、風呂場へと足を向ける。
1度目に出された精液が臀部から太腿へと辿るのを感じながら長い廊下を歩いた。
と、風呂場から淡く漏れる光。
タクトは途端に頬を赤らめた。
今までとは全く違う、まるで乙女のような反応だが、本来の彼はこちらが正しい。

「スガタ……」

ドアに指を沿わせながら小さく呟いた。
それから深呼吸をすると、脱衣場に滑り込むように入る。

「タクト、またか。」

さすれば、呆れたような表情を浮かべた彼の姿。

「スガタこそ、何でこの時間に居るわけ?」

タオルで濡れた肌を拭き取っている彼の身体は鍛え抜かれており、それでいてしなやかだ。

「僕は稽古をしていたんだ。誰かさんの喘ぎ声が壁伝いに聞こえてくるんでね。」

「ごめんね。でも安心して。あの人はもう切ったから。」

「なら、」

そんな風に身体に見とれていると、不意に近づいて、タクトの頬を撫でる。
けれどタクトはその手をやんわりと拒んだ。

「だめ、僕はスガタには抱かれないよ。」

顔を赤らめながらもきっぱりとそう言いきったタクトにスガタは納得がいかないらしい。

「僕の好き、とタクトのスキは違う、だったっけ?」

はぁ、と溜め息を吐きながら漏らすその言葉に頷けば、スガタは話を進める。「けど、僕のお前に対する好きは肉欲込みの愛から来るものだ。ワコへ向ける親愛とは似て非なるものなんだが」

いつになく真剣な瞳でそう言った彼は、タクトの唇にそっと口付けを落とした。
そこには多大な愛情が込められているのが感じられたのだが、タクトはあえて見て見ぬ振りをする。

「スガタ、君にはワコっていう大切な婚約者が居る。」

「それは、今から白紙に戻したって構わない。僕はタクトしか要らないんだから」

ギュッと裸体を抱き締めるスガタの手は震えていた。
タクトはスガタが好きで、スガタはタクトが好き。
それは誰にも否定出来ない事実であり、だからこそスガタはタクトを諦めきれない。
けれど、とタクトは思うのだ。
スガタを思い出すときは決まってもう1人の親友も思い出す。
あどけない顔で二人に駆け寄るあの子の笑顔を奪う事など、タクトにはとてもじゃないが出来ないのだ。

「スガタ、僕だって君に抱いて貰えたらどれだけ幸せだろうって思うよ。けどね、だからといって僕らがワコの幸せを奪っちゃいけないんだ。だって、二人でワコを守るんだって決めたでしょう?」

グイッとスガタの胸板を押し返せば、今度は抵抗されることなく腕から抜け出すことが出来た。
そしてそのまま風呂場へと駆け込む。
ガラリ、と風呂場のドアを閉めると同時に背後で脱衣場のドアが閉められる音がした。
途端、気が抜けたのかその場にズルズルと座り込んでしまう。
そしていつのまにか瞳から流れ出ていた液体が太腿へと落ちこんでいった。




だからきっと彼女を愛して

(僕なんか見えなくなるくらい)(きつくきつく抱きしめてあげて)






どうやら私はタクトをビッチにしたいようです。
ビッチ美少年だってきっと需要はある。
そして切ないのが好きらしい。


110215



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