ガチャガチャと音を立てる食器達と格闘しながら、クルクルと手際良くいかない自分の不器用さを恨みながらもチョコレートを丸めていく。
「えっと、次はココアパウダーと、ココナッツパウダー……って何処にあるんだろう」
レシピを眺めながらそう呟いた。
ピンク色のエプロンは既にチョコレートでベタベタになってしまっているが、タクトは特に気にしていない。
「ジャガーさん、ココナッツパウダーってどこにありますか?」
取りあえず内線でシンドウ家のメイドであるジャガーを呼び寄せた。
「ココナッツパウダーなら、その棚の奥にありますよ。……それにしてもその格好、坊ちゃまに見せてさしあげたいですわ……!」
「いや、スガタには言わないでくれないかな。ほら、ちょっと恥ずかしいっていうか……」
が、即座にからかわれてしまい頬が火照る。
「冗談ですよ。それにしても本当にスガタ坊ちゃまの反応が楽しみ……明日は眠れないかもしれませんね?」
「なっ、……ジャガーさんっ!?何を……」
「ふふふ、それでは失礼します」
カチャッと閉められたドアにほっ、と安堵の息を吐いた。
それから気合いを入れ直し、チョコレート作りに取りかかる。
グリグリと手のひらでチョコを転がし丸め、ココアパウダーをまぶして箱に収めるという機械的な作業だが、普段料理をしないタクトには難しい。
「イッツアハード……」
思わず零れた今は亡き親友の口癖に苦笑した。
コロコロ、コロコロとまぶしていくうちにだんだん慣れてきたのか綺麗な形が出来るようになり、作業スピードもあがる。
そしてあと数個、とラストスパートに入ろうとした時、カチャッ、と再びドアが開く音がした。
今度はタイガーか、などと思いながらそちらを見やり目を見開く。
それは入ってきた人物も同じで、手に持っていたらしいスーパーの袋をドサリと落とした。
「タクト……お前……」
「スガ、タ…なんでここに……?」
そして零れたのはお互いの名前。
それからツカツカと歩み寄ってきたスガタはタクトの手首をがっしりと掴み、険しい表情を浮かべて叫ぶ。
「タクト!お前、誰にチョコレートプレイを強制された!」
「はあっ!?」
「言え、タクト!そんな全身にチョコレートを付けて……!ま、まさか裸エプロンまで晒していないだろうな?僕だってまだ見ていないのに先を越すなど許さん!くそう誰だああぁぁぁぁ!!!」
「お、落ち着いてスガタ!僕はチョコレートを作ってただけだからっ!」
あ、言ってしまった。彼には内緒にしておくつもりだったのにとタクトは思ったが、それ以上に暴走を続けられるのが嫌だった為、これも仕方ないのかもしれないと諦める。実際その言葉でスガタは暴走を止め、安堵の表情を浮かべていたので効果があったのだろう。
「なんだ、チョコレートプレイはまだ未体験だったか。」
「そこは心配するべき所じゃないと思いますスガタさん……」
が、スガタの言葉にガックリと項垂れるとタクトは再度自分の感じた疑問を口にする。
「それで、なんでスガタがここにいるの?調理室なんて使わないでしょう?」
「ああ、チョコレートを溶かしに来たんだ。明日はバレンタインらしいからな。タクトの身体にはチョコレートがきっとあうと思って。」
さらり、と残念な言葉を吐き出したスガタはそういうと手に持っていたチョコレートの山を差し出す。
そこには板チョコがどっさりと入っていてタクトは気が遠くなりそうになった。
(これ、全部塗る気だったのか……)
「スガタ、これはちょっと、ね?ほら、僕はチョコレートプレイなんて興味ないからさ、」
真っ青になっているであろう顔を隠しながらも恐る恐る断ると、こんどは意味が分からないとでも言うかのようにスガタが首を傾げる。
「どうして?タクトは甘いものがすきなんだから当然興味あるだろう?」
そういってガシッと手首を掴んだスガタは微笑むと、
「すぐに溶かしてくるからここで待ってろよ。ああ、風呂でも良いけどどっちが良い?」
などと言ってキッチンの奥へと入っていった。
それをなすすべも無く見つめるしかないタクトは顔面蒼白。
このあと、寝る暇さえないようなチョコレート攻めにあうのかと思うと、なんとも逃げ出したい気持ちになったのだが、逃げ出せばどのようなお仕置きが舞っているか分からない。
つまりは袋の鼠。
逃げ場など、最初からあるはずも無かったのだ。
チョコレートに濡れて
スガタク書くとなんだか文体が踊るんですが何ですかねこれ、病気ですかね。もっと書き込まなくては。
とにかくバカップルらしくいちゃいちゃしてもらいました!
110213