寂しさを示す情熱のレッド
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クチュ……

「ん……あっ……」

夕焼けに染まる教室の中で、絡まりあう舌と腕。
唇が離れる度に零れ落ちる不満げな音がなんとも淫靡な雰囲気を醸し出している。
けれどもその音は明らかに変声期を経た少年のものであり、そしてそんな少年に噛み付くようなキスを贈っているのもまた、少年であった。
チュクと舌が離れる音と共に二人の間に空間が出来る。
息一つ乱していない赤髪の少年は唾液に濡れた唇をいやらしく舐めながら首をかしげると音を溢した。

「もっと……して……?」

熱に浮かされた瞳は涙が溜まり、夕焼けに反射して輝いて見える。
ゴクリ、と喉が鳴る少年は再び目の前の唇に合わせようと二人の瞳は閉じた。
しかし、二度目の口付け上手くは行かなかったのである。
いつまでたっても訪れない唇の感覚に瞳を開けると、赤髪の少年は目を見開いた。

「スガタっ……何でここにっ……!」

何故ならそこには少年の頭をがっしりと掴んだ彼の親友であるスドウ・スガタが佇んでいたからである。
氷点下の微笑みを浮かべているスガタは掴んでいるモノに対して命令とも言える指示を出す。

「タクトから離れてここを立ち去るんだ。そして二度とタクトに近づくんじゃない。」

その瞬間頭が自由になった少年はタクトを抱き締めていた腕を離すと一目散に駆けていき、教室には二人だけが残された。
その状況を呆然としながら見ていたタクトは不意にスガタに抱き締められる。

「す、スガタっ……!」

「なぁタクト。何故お前はその唇を売るようなことをする?何故知らない男とばかり口付けをするんだ。」

そして耳元で囁きながら耳を舐めた。
ぞわりと粟立つ感覚と、聴覚を犯す水音に蝕まれながらタクトは脚を震わせる。

「キス、するのは……僕が寂しがりやだから……。相手は知らない男っていうより僕にガラス越しのキスをせがんで来た人だけ……」

そう言葉を並べている間もスガタは耳を舐めるのを止めることはなかった。

「何故、寂しいと選んだキスの相手は男なんだ。タクトなら女がほっておかない筈だが?」

そして質問も止まらない。
キスの時には無かった身体の震えに戸惑うタクトはそれでも必死に言葉を紡ぐ。

「それは……僕を溺れさせるのは受け身なキスだけだったから」

と、不意に耳元の水音が止んだ。
ほっと一息ついたタクト。
しかし抱き締められているのは依然変わらない。
そして気づくのだ。タクトのすぐ近くにスガタの顔があるということに。
その事実にタクトの頬は真っ赤に染まる。まるで恋の相手が近くにいるような、そんな染まりかたで、スガタはくすりと笑った。

「ならばタクトをキスで誰よりも溺れさせることが出来れば、もうタクトを奪われなくても良い、ということか。」

そしてそう呟くと、タクトのその唇へと自分のソレを合わせたのである。
驚きまた目を見開いたタクトは必死にその唇から逃れようと身を捩るが、どうも力が入らない。
抱き締められた腕はいつしか腰と頭に回っている。
更にスガタの舌はいとも簡単にタクトの唇を割り、内部に侵入してきたのだ。
そしてタクトを攻めるように舌は動き回る。

「っん……ん、んあっ……んんふぁっ」

くぐもった喘ぎ声が喉元で精製されているのが分かる。
そして普段ならば呼吸出来るポイントを見つけ出して瞬時に酸素を取り込むタクトなのだが、自らの喘ぎ声とスガタの攻めに戸惑い息継ぎのタイミングを掴めなくなっていた。
その為どんどん酸欠になっていき、瞳からは涙がボロボロ零れ、足は痙攣し、力は抜けていく。
そしてもう限界だとスガタの胸を叩いたところで、緩やかに解放された。
唐突に大量の酸素が肺に送られて思わず咳き込むタクトはスガタの服をがっしりと握り離さない。
それは足が震えて立っていれない為なのか、それとも腰を抜かしたのか、あるいはその双方か。
とにかくタクトはどうやら今までのどのキスよりも激しいキスに付いていけなかったようだ。

「タクト、息が荒いのなんて初めてなんじゃないのか」

「っ、うるさいっ」

「それよりそろそろ言ってくれないか。君が男とのキスを求める理由と、寂しい理由を。」

そう言って髪の毛に指を絡め囁くスガタから逃れようと身を捩るもやはり彼から逃れられない。
観念したら良いのだろうが、タクトにはどうしてもそうできない理由があった。
故に唇を噛み締め顔を赤らめながらも必死に首を振っているのである。
これにはスガタも閉口し、ハァ、とため息を吐く。
そしてその音にピクリと肩を震わせたタクトを盗み見た後、苦笑を携え口を開いた。

「じゃあ、僕の勘違いだったのかな」

「スガタ?」

「君の不可解なその行動、僕が原因じゃないのかと思ったんだけど。」

違ったかな?そう問いかけタクトの肩口に額をあてる。
そんな彼の姿にタクトは狼狽し、それから耳まで真っ赤に染めて心の中で呟くしかなかった。
スガタはずるい、と。きっと僕の心の中なんて全部お見通しで、僕がスガタを見る度にどんな気持ちになってるのかだって全部全部知ってるんだろうと。
そう思うと何だか本心を隠しているのが馬鹿らしくなってくる。
これはある意味チャンスなのかもしれないと、無意味に自分を奮い立たせからそっとスガタの髪に彼が自分の髪に触れているように指を絡ませた。
そうしてから自分も彼の肩口に額をくっつけると、ねぇスガタ、と呼びかける。

「僕さ、本当はワコに恋愛感情なんて持ってないんだ」

「ほぅ?それは知らなかったな」

「うん。それからね、実は寮長とか、ミズノちゃんとか、ミセスワタナベとかも全然興味無くて」

「そうか。ならば奴らは失恋決定だな」

「もう、茶化さないでよ。それから、演劇部の女の子たちだって、確かに可愛いけど、それは恋愛に発展し得るか、って言われるとやっぱり違うんだ。」

「ふぅん。お前は本当に罪作りな奴だな。」

「そうなのかな?……でもね、スガタ。君が君とワコの婚約を破棄する、って言ったとき凄く嬉しかった。勿論その嬉しいはワコとの可能性が広がるからとかじゃなくて。」

そこまで話したところで少し胸が痛くなった。心臓がドクドクと波打ちそれが響いて、まるで全身が心臓になったかのような感覚に陥る。
恥ずかしくて緊張して、もうこの先を話したくないという気持ちにさえなるが、けれども今止めたらきっと心に蟠りが残り続けるだろうという確信がタクトを動かした。

「僕は、きっとおかしくなったんだと思ったんだ。だって、僕の描いていた青春謳歌の絵とはまるで正反対だったから。青よりピンクに、ピンクより黄色に惹かれる、そんな青春だったはずなのに」

ドキドキと心臓が煩い。ふと肩口から覗くスガタの肌を見ると仄かに赤く染まっていて、何だか嬉しくなった。

「でも、何回考え直してもやっぱり僕が一番引かれたのはピンクでも黄色でもなくって、だから」

そこから先は言うことが出来なかった。
何故ならスガタの唇がタクトの唇に触れていたから。
啄むような甘いキスは、受け入れてしまえば本当に気持ち良くていつまででも続けて居られそうな気さえするのである。

「スガタ……好き……」

そんなキスの合間にこっそり呟けば、そのまま深いキスへともつれ込んでいった。
本日二度目のそれは先程よりもどこか柔らかくて熱くて脳髄が蕩けてしまいそうである。
何分唇を合わせていたかは分からないが、酸欠により漸く解放されたそこから繋がる銀の糸がいやらしくて頬が火照った。

「僕もタクトが好きだよ」

そう告げられ強く強く抱き締められると、見知らぬ彼と口付けていた時のあの寂しさが、すっと消え失せてしまった。
堪らず嬉しいと呟けば、僕もと額に口付けられ、赤くなれば可愛いと頬に口付けられる。
それさえも嬉しくてこちらからそっと口付ければ、驚いた表情を浮かべ、それから

「あんまり煽らないでくれないか。僕だって男なのだから」

なんて囁かれてしまった。

「僕だって男だからね、我慢なんてできないんだよ。」

だから、仕返しとばかりにそう囁き返せば、ニヤリと微笑みそしてその場に押し倒されてしまったのだ。

後日、この話が何処からか出回りワコやジャガーたちの妄想の糧へとなってさまうのだが、それはまた別のお話……。





寂しさを示す情熱のレッド





ついに書いてしまった……!
オチが迷子になったのでブチっと切ってしまいましたが大丈夫ですかね…。

スガタク好き過ぎて辛いです。久々にブームカプがやってきたので、期間限定でスタドラ部屋作りました。
二人のキャラが掴みきれて無くて擬似スガタクみたいになりましたが…!
それにしてもタクト可愛すぎて毎週日曜日が、楽しみで仕方ありません。
何が楽しみって、スガタとのお風呂シーンですとか、そのあとのニャンニャンシーンですとか、いつぞやのキスシーンですとかワコ様の妄想とかですね!
あと、ヘドタクも好きですのでそのうち書くんじゃなかろうか、という感じです。
では、後書きなのにダラダラ語ってしまい申し訳ありませんでした。
拙い文章をお読みいただきありがとうございました。





110201




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