「好きなんだ、タクト」
そう言って頬に手を触れるスガタ。
その冷たい瞳は、優しさの色に染められ、見る影もない。
こんな優しい瞳は、例えワコにさえも向けている所を見たことはないとタクトは狼狽した。
「すがた、離して」
「好き、いや違うな。愛してる。そうだ、僕はタクトを愛してる。」
頬に添えられた手でない方は、いつの間にか腰に回されており、僅かに身体同士が密着している。
「この赤い瞳も、桃色の唇も、君の身体も、心も全て僕のモノにするにはどうしたら良い?」
そして、問いかけというよりも自問に近い言葉を呟くと、頬に置かれていた手が滑り降りてきた。
「スガタ、ぼくは青春を謳歌しに、」
「ならば、僕の物になれば良いんだ。」
首筋を撫でられゾワリと身体中が粟立つ。
そして顔が近付いてきたと思ったら唇をそこに押しつけられた。
「スガ、っん」
続いて吸い上げられ、若干の痛みを感じる。
「やっぱり、君には朱が似合うよ。」
顔を上げた彼が指で何かをなぞりながらそう言ったその時に、ようやく痕を付けられたのだと確信した。
「何してるんだよスガタ」
「そうだな……あえて言葉にするとするならば予約、かな」
「予約?」
意味が分からないと訝しめば、スガタは口角をくいっと上げていう。
「そう。マーキング、とも言うかもしれないけど。」
そして唇が重なった。
慌てて腕を突っ張るけれども、啄むようなキスは腕の力をも吸収してしまい抵抗をものともしない。
そんなものだからするっと唇を舐められた時もしっかりと閉じていた唇は震えて、スガタを招き入れてしまう。
「いい子」
呼吸の合間にそう言われてカッと頬が熱くなった。
けれども言い換えそうと口を開けばスガタの舌が大胆に入り込んで来るため喋る余裕も無くなる。
「ふぅ、う、んん、」
そして変わりに零れたのは言葉にならない甘い音で。
タクトは少しずつ緩やかな快楽の中に溶けていった。
(ちがう、ぼくがのぞんだのはおんなのことの……)
その快楽はタクトの脳髄さえも溶かしていく。
(おんなのこ……)
心で呟かれるその言葉は最早効力を失い、タクトを混濁させた。
(おんなのこって、なんだっけ……)と、ちゅくりと唇を解放される。
ゆっくりと瞳を開くと、涙にぼやけたスガタが見え、そのままスガタの胸元に体重を預けた。
トクン、トクンと囁く心音が心地よくて瞳を閉じる。
そんなタクトの髪の毛をスガタは撫でる。
それはそれは愛おしそうに、優しく、そして残酷に。
混濁の唇
我が家では珍しいスガタからの一方通行
110301