MP3より思いを込めて
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疲れた。
静雄はバーテン服のリボンタイを引きちぎらないように慎重な手付きで外してからそっと机の上に置いた。
ふー、と息を吐き出してから肩を回せばゴキッと嫌な音がする。
そしてふと机上のデジタル時計を見、初めて今日の日付を知った。
1月28日。
他の人から見れば祝日でもなんでもないただの日に過ぎないそれは、しかし静雄にとっては大切な日なのである。
昔は三日前から眠れなくって、母親を困らせたっけ。十年前には幽がケータイをくれたんだった。
そんな風に昔のこの日を思い出す。
そう1月28日は、静雄の誕生日なのだ。
誕生日、それは静雄が幼少時代に設けた一年にただ一度だけ自分を許せる日であった。
凶悪な自分の力を恨み、なぜこんな身体になってしまったのだろうと自分を責めて生きていた彼は、年にただ一度のこの誕生日を祝ってもらうことで救われていたのである。
自分は生きていて良いのだと、自分の生命は祝福されているのだと、実感できていたのだ。
けれども今日という日はどうだろうか。
これといって普段との大きな違いは無く、むしろ普段よりも味気なかったような気がする。
誕生日だというのに、家族からも数少ない友人からも、そして恋人からも、おめでとうの言葉を聴いていないのだ。
元来ポジティブかネガティブかといわれれば間違いなくネガティブに分類される静雄は
やはり自分は必要ない人間なのだろうかとなきそうになっていた。
そして恋人を思い描いた所で気づく。

「そういや、正臣に俺の誕生日教えてねぇや。」

これではおめでとうなんて言葉、聴けるはずが無いのだ。
静雄は少し格好つけて「誕生日?そんなのねぇよ」なんていったことを後悔する。
恋人に自分の誕生日を祝ってもらえないのがこんなに辛いだなんて、今まで恋人が居なかった彼は知らなかったのだ。
とにかく、今すぐにでも恋人の声が聞きたい。そう思い携帯を準備したが、時計を見ればもう既に23時を超えていて電話を躊躇う。
どれだけ大人っぽくったって彼はまだ高校生。そして静雄の中では高校生は23時には就寝するもの、という方程式が成り立っているのである。
ハァ、と溜息を漏らし、仕方が無いのであと残り少ない誕生日を一人で祝おうと冷蔵庫を開くが、お酒の一つも入ってなくて、過去の自分に絶望した。
ならばもう寝るか。出鼻を挫かれた静雄は悲しみにくれ、ベッドへともぐりこみ、布団をかぶる。
なんと切ない誕生日なのだろうか、そう思うと涙が零れてしまいそうで、少し恥ずかしかった。
きっとこの誕生日はずっと忘れないだろう、そう思い部屋の電気を消して瞳をとじる。



が、すぐに起こされてしまった。
携帯がぶるぶると振るえ、光を放ちながら音を口ずさんでいる。
時刻は11:58。もうあと二分で誕生日が終わってしまう時間であった。
慌てて携帯を開くもそこに着信は無く、代わりにメールが一件入っている。
もしかしたら、と胸に一抹の希望を抱きながら差出人を見ると、そこには恋人の名前。
それだけで心拍数が上がり、もしかしたらという希望が少し大きくなりわくわくしながらメールを開封する。
しかしそこには何も記されていなかった。
これはいったい何の嫌がらせだと静雄はがっくりと落胆せざるを得なかった。
そして数秒そのメールを見つめ、ハァと溜息をつき、閉じようとしたそのとき、ふと何かが添付されているのに気がついた。
いったい何がついているのだろうか。
そう思いそのファイルを開封すると、

「ハッピーバースディ静雄さん!僕は竜ヶ崎じゃなくて竜ヶ峰ですからね」
「お誕生日………おめでとうございます……」
「いやぁ、静雄ももう同い年か。おめでとう静雄。誕生日だからってセルティは渡さないよ!」
「おめでとう兄さん。良い恋人を持ったね。」
「ハッピーバースディ静雄。これからも仕事よろしくな」
「オー、メデタイネ!オメデトウ」
「シズちゃんにも誕生日があったんだね。まあ最後の誕生日を楽しく過ごしなよ。いつ俺に殺されるか分からないんだからね」
「シズシズおめでとう!」
「静雄、今日誕生日なんだってな。おめでとう。」

たくさんの声が溢れてきた。
それは全て自分に向けられた誕生日メッセージで、静雄は目頭が熱くなるのを感じる。
こんなに素敵な誕生日プレゼントはあるだろうか。
そして正臣からの多大な愛を思った。
きっと彼が知らないような人だってこの中には居ただろう。
それなのにこうやってみんなのコメントを集めて回ってくれて。

「静雄さん、お誕生日おめでとうございます。静雄さんが誕生日教えてくれないから大変だったんですよ?本当はサプライズパーティーとかしたかったのに……。でも、間に合ってよかったです。本当に、生まれてきてくれてありがとうございました。それから、えっと……これからもよろしくお願いします。って、なんかこのコメント照れますね。」

そんな物思いにふけているうちに彼のコメントが入った。
きっと笑顔でコメントしてくれているのだろう。言っていることが可愛くて仕方が無くて、思わず顔が緩んでしまった。
そしてどうしても会いたいという衝動に駆られる。
彼を抱きしめて、口付けてありがとうと伝えたいと。
気がつけば静雄は家を飛び出していた。彼の家まで走れば十分もかからないだろう。
そして彼の家に着いたらこういうのだ。

「俺を愛してくれてありがとう。」

と。









MP3より思いを込めて


110128



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