いつしか時は過ぎ、二人の結婚の契りを交わす日時は着々と近づいていた。
正臣は徐々に昔の明るさを取り戻しつつある。帝人に言われたあの言葉が未だに胸にしみ込んでいるらしい。たまに思い出しては幸せな気持ちに浸る。
「帝人・・・様・・・」
思わず零したその言葉に恥ずかしくなって俯いた。それと同時にいつぞや正美が呟いていたあの夜を思い出す。
「正美、俺、正美の気持ちがやっとわかったよ・・・・」
今は居ない少女に語りかけるように呟いた。半ば懐かしむ形で正美との日々を思い出して少し涙腺が緩んだが涙はもう零れてこなかった。
「会いたいな正美と、・・・・・・帝人様に」
「呼んだ?」
「ひゃあ!?み、帝人様・・・!?」
びくり、と大げさなほどに飛び跳ねた肩に添えられた手にドキドキしながら振り返れば、ニッコリと笑った帝人が居た。どうやら部屋に入ってきていた事に気が付いていなかったらしい。それほどまでに考え込んでいたのかと正臣は自分に苦笑した。
「そんなに驚かなくても・・・もしかして僕の事、考えてたの?」
「っ!えっと・・・あのっ、えっと・・・!」
帝人の声に先ほど呟いてしまった言葉を思い出してしまったらしい。かああ、と綺麗に染まった正臣はわたわたする。その様子を見た帝人はくすりと笑った。そして一言、可愛い、と零し、正臣の頬は更に紅潮する。
「ふふふ、嬉しいよ?」
「うぅ・・・恥ずかしいですよ・・・・もう・・・・」
少し涙の滲んだ瞳で見上げる正臣の頭に手を置いてわしゃわしゃとかき混ぜれば、あうあうと慌てる婚約者が可愛くて微笑む。そしてはた、と何かを思い出した帝人は突然赤面した。
「あ、あの正臣さん?」
「あ、はい・・・?」
突然改まった帝人に姿勢を直し、心を戻す。何事だろう、とは思ったが何か大切な事だという事は理解できたので向かい合えば彼はぽりぽりと頭をかいた。
「あの、さ。婚約の契り、っていうか・・・そういうの知ってる?」
「あ・・・いえ・・・そういう事に関してはあまり教わっておりませんので・・・」
「そっか・・・」
素直に答えれば言葉に詰まった後、俯いてしまう。
「あ、あの・・・?」
そんな帝人が不安になって問いかければ、帝人はううん、気にしないで。と笑ったあと立ち上がった。
「じゃあ、また明日来るね?」
「あ、はい・・・お待ちしております・・・」
逃げるように帰ってしまった帝人の後ろ姿を眺めながら婚約の契りなる物の正体を探る為に母屋に向かった。
100603
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