はふ、と息を吐けば部屋の空気が揺れた。
心臓が激しく胸を叩く音をぼんやりと聞きながら、視界に入った純白に少し幸せな気持ちになる。
「ついに、か・・・」
ぼそりと呟けばやはり空気は震え、厳かな雰囲気を壊してしまいそうで口を閉じた。
静かな時間が流れる。コチッ、コチッ、と時を刻む音だけが響く。
ソワソワする気持ちを落ち着ける為に髪に触れようとしたら白いレースに阻まれ、居たたまれない気持ちになった。
何かすることは無いだろうかと椅子から立ち上がる。すると斜め前にあった全身鏡に己の姿が映った。
純白に包まれた己の姿に不思議な気持ちになる。す、っと鏡に手を当てれば、鏡の中の人と繋がった。
すぅっと息を吸う。
止める。
吐き出す。
ほぉっという音と共に白い靄が広がった。
「何してるんだい?」
カチャ、という音に気が付かなかった自分に驚く。
白い燕尾服に身を包んだ男はカツン、カツンと近づいてきた。
「つくづく白がにあわないですね」
「酷いなぁ、それが愛する夫に言う言葉?」
「愛してません。」
「でも挙式するくらいには愛してるんでしょう?」
ニヤニヤと笑う臨也から顔を反らせば、いつの間にか隣に居た彼にするり、と輪郭をなぞられた。そして唇をかるく押される。
「んっ、」
「嘘は良くないよ、正臣くん?」
ベールを持ち上げられ、額に触れるだけのキスを一つ。
「うるさい、ですよ・・・」
少し顔が熱かったが気がつかないふりをした。それに気がついたらしい臨也はクスリ、と笑って正臣の手を取る。
「じゃあ、そろそろ行こうか正臣くん。」
至って紳士的にエスコートする臨也に少し戸惑ったが、今日は特別な日だから、と変に自分を説得してそれに従えば、彼はやっぱり微笑んだ。
人一人いない教会の中を迷うことなく真っ直ぐ進む。
知り合いも牧師も居ない中、ただただ二人で歩いた。
シン、とした空気が変に心地好く、
(ああ、やっぱり俺たちはこれで良い)
と納得して絡めた腕に力を込めた。
イエス様の前に立ち、二人で静かに礼をする。誓いの言葉も指輪交換もない、簡素で質素な式の中、純白なウェディングドレスだけが浮いているように感じた。
暫く続いた沈黙を破る形で臨也が口を開く。
「そうそう、言い忘れてたけど君にその白はよく似合うね。」
「そう、ですか・・・?」
「うん。君の髪がよく映える。それにある意味純粋な君にはピッタリの色だよ。」
「・・・ありがとうございます」
自然と二人が向き合って、臨也の細長い、しかし男らしい手がゆっくりとベールをめくる。
毎日のようにしている行為、なのに何故か照れくさくって捲られた瞬間から目を開けられなかった。
そして、再びスルリと撫でた手が少し震えていることに気がついて、心が落ち着いた。
「愛してるよ、正臣くん」
声と同時に降りてきた唇が正臣のそれに触れた。
そして、正臣は決意する。
(この唇が離れたら、俺もこの人に言うんだ。)
初めての愛の言葉を
(そして少年の口からその言葉が溢れたとき)(彼らの婚姻は成立する。)
6月ということで、花嫁計画第一段です!
臨正です。
あと静正と帝正やろうと思っていますが、静正は未定です。
100601