スッ、とたいした音もたてずに開く襖。
間髪入れずに三つ指つくと、またクスクスと笑われた。
「こんにちは、紀田正臣さん」
顔をあげて?優しい声で囁かれてゆっくりと顔をあげる。
やっぱり眩しい。夏場の太陽のように、向日葵のように。
眩しすぎて思わず目を瞑ってしまった。だから正臣は帝人がどのような表情をしているか、わからなかった。
カタリ、と立ち上がると帝人は正臣の母親に近づく。
「正臣さんと二人にさせて貰えませんか?」
普段の帝人のそれとは違い、軽蔑の意を込めた笑み。見るもの全てを凍てつかせるような眼差しに震え上がった彼女は
「は、はい!失礼します・・・!」
と足早に立ち去った。それを満足そうに眺め、そして正臣に向き直る。
「正臣さん、」
そしてギュウッと抱き締めた。
「み、帝人様っ!?」
慌てる正臣を他所に更に腕に力を込めれば大人しくなった。
「何があったの?」
静かな声が部屋に、耳に響く。
「な、にも・・・ありません」
恐る恐る答えればニッコリ笑って嘘だよね?と言われ、うっと言葉に詰まった。
「だって、以前の向日葵のような笑みが見つからないんだ、貴方から。最近ずっとだよね?もう暫く心から笑ってないんじゃ無い?」
「・・・・・・」
「僕は、正臣さんの笑顔が好きなんですよ、勿論本物の方の。だから、」
「僕のために笑ってよ?」
さらり、と放たれたその言葉が心の中に染み渡る。
そして一拍置いて涙が込み上げてきた。
この人は自分の変化に気付いてくれた、それだけで何故こんなにも胸が暖かくなるだろうか。
「はいっ、はいっ・・・!」
震えた声で返事をすれば更に強く抱き締められて。
「勿論、泣きたいときは泣いても良いんだよ?」
という言葉に何かが決壊する。
「ふぇっ、ふっ・・・うぅぅっ・・・」
押さえきれない嗚咽が室内に響くなか、正臣は確信するのだった。
あぁ、自分は彼に恋しているのだ、と・・・
100531
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