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※正臣と帝人が知り合いじゃない
※パラレルワールド



家の近くに、どうやら新しいケーキ屋さんが出来たらしい。
可愛らしい門構えを遠目から眺めながら帝人は思考する。
ここならいつもお世話になっている園原杏里も喜んでくれるんじゃなかろうか。
味が分からないのが難点ではあるが、新しいケーキ屋ができたから食べに行ってみないかと言えば、実にナチュラルに誘える上に、美味しくてもそうでなくても共通の話題ができる。
これこそ、一世一代のチャンスじゃないか。
帝人はそう奮い立つと、ケータイを取り出し震える指でお誘いメールを作成し始めたのだ。



「ええと……お誘い、ありがとうございます」

そして翌日。
帝人は可愛らしい服を着た園原杏里と二人、池袋を歩いていた。

「あっ、ぼ、僕も…園原さんが来てくれてよかったよ。」

たどたどしい会話を繰り広げながら目的の店へと向かう。
そして、あの可愛らしいウィンドウをくぐった所で、杏里の目が爛々と輝きだした。
帝人もまた、その場に圧倒される。
まず、ショーウィンドウに並べられた可愛らしいケーキの種類は豊富で、始めてみたような、けれど冒険してみても良い気がしてくる物に視界を占領された。
続いて隣接した小さなカフェの決して嫌みったらしくない、趣味の良い可愛らしさに目を奪われる。
そしてそのピンクと白を基調にした壁の前に、突然黄色が現れた。

「いらっしゃいませ!お二人様ですか?」

しかしよく見ればそれは黄色、ではなく金に似た茶色の髪を携え黄色いエプロンを纏った人間である。
にっこりと笑ったその表情はあまりに柔らかく、帝人は目を奪われた。

「り、竜ヶ峰くん……」

が、杏里に服を引っ張られてはっとする。見とれている場合ではない。

「ええっと、二人、です。」

慌てた返答は声が裏返ってしまったが、彼の目をしっかりと見て言えば、一瞬目を見開いた後、にっこり笑って注文を承りますと言った。

そんなこんなで、帝人は彼と出逢ったのである。

結論から言えば、杏里と行ったあの日残念ながら帝人は杏里との仲を深める事は出来なかった。
いや、出来なかったというのは正しくない。
正確には深めようと思えなかったのだ。
ケーキ屋に入ってからというもの、帝人は彼から一秒たりとも目を離すことはなく、珍しく杏里が話し掛けてくれていたのにそれに対してすら上の空。
黄色を目で追うのに必死になっていたら、いつの間にか杏里はケーキを食べ終わっていた。
そしてそんな帝人に向かってにっこり微笑むと、机の上にお金を置く。

「竜ヶ峰くん、応援してます。頑張って下さいね。」

それから彼女は颯爽と店を出て行ったのだ。
形の崩れていないケーキと、冷め切った紅茶、それから言葉の意味も理解できず、ぼんやりしている帝人を残して。
そんな中でも帝人は何かの病のようにぼーっと青年を見つめ続ける。
と、それに気づいたのか彼がこちらにやって来るではないか。
途端に帝人の心臓は荒れ狂うように高鳴り始める。
こんなのまるで、恋みたいだ。
なんて、柄にもないことを考えていると黄色が視界を飾った。

「彼女ほっぽり出して先ほどからずっと俺を見ていらっしゃいましたが……何か、御用ですか?」

ちくり、と少し棘のある声色で、棘のある言葉を放った彼を思わず見上げる。
同い年ぐらいだろうか。近くで見ているとその大きな目に吸い込まれそうだと帝人は思った。

「あ……いえ、すみません。どうしてもあなたが気になってしまって。」

それから何気なしに放った言葉に困惑し顔をそらす。
昔から意見を率直に言ってしまう癖のあった帝人は、制御しないとどうにも対人関係が上手くいかないのだ。
また、やってしまったかもしれない。そう思い視線だけ元に戻すと、そこには少し頬を染めた彼が立っていた。
いったいどうなっているのだ。
帝人は彼を赤面させるような言葉は発していないつもりであるし、どちらかというとずっと見ていたということを肯定した気持ち悪さに顔をしかめられるであろうと思っていた為、彼が赤面する理由がどうにも分からず首を傾げる。
と、青年が声を発した。

「そ、ですか。同性相手とは言え気になると言われると少し照れます、ね。あっ、じゃなくてえっと、本当はお客様がケーキをお食べにならないので何か不具合でもあったかと思ったのです。」

帝人はその発言にあっと声を上げそうになった。
ぽりぽりと頬を掻いた彼の言葉に初めて自分がケーキに手をつけていないことに気がついたのである。
これはとても失礼なことだ。
ケーキ屋の商売道具であるケーキに手をつけることも無く、頼むだけ頼んでおいて後はずっと上の空だなんて、ケーキに魅力がないのではないかと従業員が勘違いしてしまうに決まっている。
慌ててフォークを手に取るとその柔らかそうなスポンジへと突き刺した。
一口分掬いとって口へと運べば帝人は驚き目を見開く。
なんせ、こんなに美味しいケーキなど、食べたことが無かったのだ。
口の中で蕩けるようなスポンジに、絶妙な甘さの生クリーム。
それら全てが帝人を魅了する。

「おいしい……」

気がつけば呟いていた。
フォークを持った手は止まらない。
一口、もう一口、とパクパク口の中にケーキを放り投げていく帝人に、青年はあんぐりと口を開けて突っ立っているほか無かった。

「ご馳走様でした。」

そしてまた気がつけば完食、である。
帝人は冷え切った紅茶を喉に流し込んでから席を立ち上がると、青年にゆっくりと微笑んだのだ。

「美味しかったです。また、来ます。」

その言葉に誤りは無かった。
帝人はそれからずっと一週間置きに店に現われてはショートケーキを一つ買い、食べて帰ることを繰り返している。
人目を気にする帝人は本来一人でケーキ屋など入りたくはない。
けれども彼は通い続けたのだ。
おかげで例の彼とは顔見知りになれたし、他の従業員とも知り合いになることができ、今では週一回の楽しみに成りつつある。
そんな時、一つの情報を手に入れた。
どうやらウエイトレスの彼の誕生日が近いらしいということを常連仲間の青年――名前は確か名倉と名乗っていたと思う――が教えてくれたのだ。
どのようにしてその情報を手に入れたのか分からないが、知れてよかったと思う。
とにかく何かお祝いをしたいと、帝人は頭をひねったのだ。

が。
何も思い浮かばない。
あれだこれだと考えても、所詮は店員と客の関係。
彼の趣味やなんて知りもしないし、何かをあげてもすでに持っていたとなると帰って気を使わせるだけである。
それに、自分からもらっても帰って迷惑なのではという気もし、結局当日になっても
手元に彼宛のプレゼントはもっていなかった。
けれどもとりあえずおめでとうの一言だけはどうしても言いたくて学校帰りにこっそりと店を覗く。
するとカウンターには彼が一人虚空を見つめてぼんやりとたたずんでいた。
これはひょっとしなくてもチャンスなんじゃなかろうか。
帝人はそう思うと今度はドアをしっかりと開いて中に入って行った。

「あ、いらっしゃいま……うわああ!」

と、姿を見るなり目を白黒させる彼。

「うわああって……」

帝人が苦笑すると、はたと正気に戻った青年はペコペコと頭を下げる。

「す、すみません。俺、お客様に……!貴方はいつも違う曜日にいつもいらっしゃるのでビックリしてしまって……」

しゅん、としてしまった彼。
しかしその表情からは抑え切れない喜びのようなものを感じる。

「でも、俺今日貴方に会えてよかったです」

そしてその言葉を聞いた瞬間、帝人はカウンターへと近寄ったのだ。
突然の動きに驚いたのかびくり、と肩を震わせた正臣の手を取る。

「えっ、あのっ」

「お誕生日、おめでとうございます。」

それから紡いだ言葉に彼は今度こそ目を見開いた。
頬を真っ赤にして、驚いた後に目に膜を張って俯く。

「どうしても、言いたくて。あの、プレゼントとか考えたんだけど良いの思いつかなくて。すいません。今度何か欲しいものあったら言ってください。」

そう言い切って帝人は背を向けた。
なんだか無性に恥ずかしくなったのである。
柄にもないことをしてしまった。そう思い歩き始めようとした所で後ろから手を引かれて振り向く。
すると、青年は帝人と視線を合わせずにぼそりと呟いた。

「欲しいもの、あります。」

「……なんですか?」

帝人の手首をきゅっと握り締める彼。
そして意を決したらしく視線を帝人と合わせると今まで見た彼の数々の表情の中でも一番の笑顔を浮かべてこう言うのだった。

「俺に、貴方の名前を教えてください」



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