解放
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そんな静寂を破るように、臨也は口を開く。

「ねぇ正臣くん。君の」

が、その言葉は朝廷の中が騒然とし始めたことにより中断された。

「臨也さまっ!正美様がっ……!」

そして駆け足で入ってきた侍女がそう叫ぶと涙を流し始める。
正臣はその情景にふと、最悪の事態を思い浮かべた。
正美は小さいころから外に出て遊ぶ、などという事をしていない為か、昔から身体が弱く、高熱を出して度々床に伏せていたことを思い出したのである。
そんな箱入り娘で蝶よ花よと育てられた彼女が平民の住まいで暮らしているのだから、きっと以前よりも体調を崩すことも多いはずだ。
もしかしたら風邪を拗らせたのかもしれないと思うと身体中の血が引けるのを感じた。

「あの、正美はっ……いったいどうしたのでしょうか……?」

そんな不安の中でも、必死に声を絞り出してから、ふと気付く。
臨也の顔が涙と微笑みで埋め尽くされているという事実に。

「正臣くん。君の姉上はね、天皇家の子どもを授かり産んでくれたんだよ。」

そして告げられた言葉は、新しい命の誕生と、正臣への死刑宣告。
正美が子どもをこしらえたということは、すなわち正臣が本格的に必要無くなるということである。
新しい命、それも甥の誕生というのは大変喜ばしい事ではあるのだが、それをそれを素直に喜べない自分がいた。
そんな自分がどうしようもなく汚く見えて、その事実に思わず泣きそうになる。
しかし、隣にいる帝人と、臨也は微笑みを浮かべて、向かい合っていた。
そして臨也が再び口を開く。

「だから、今日をもって帝人には時期天皇の座を降りて貰うつもりさ。紀田家の血と天皇家の血を引き継いだ子の父親が代々天皇になるのだからね」

良いだろう?と臨也からの疑問をうけ、帝人は頷き言葉を紡ぐ。

「勿論、元より後を継ぎたいなんて思っていなかったもの。喜んで兄さんにゆずるよ。さぁ正臣、雨もどうやら止んだらしいから外へ行こうか。」

そして、正臣の手を取るとスタスタと歩き始めた。
そんな中、一人混乱のあまり話をよく理解出来ていなかった正臣は戸惑いの色を浮かべる。

「帝人様、どういう」

そして問い掛けた言葉を皆まで言う前に、グイッと抱きしめられた。

「兄さんが天皇になってくれるんだよ、正臣。これでもう君が悩む原因も無くなったよ。そうだ、結婚しよう!それで、庶民がそうするように僕たちも作物を育てるんだ。これからは2人で生きていこうよ。きみとなら素敵な一生がおくれそうな気がするんだ。」

そうしてまくしたてるように発された言葉を、端から順に噛みしめていく。

「私で、良いんですか?」

「正臣が良いんだ。」

恐る恐る口にした感情に返ってくる返事が嬉しくて、つい涙腺が緩んだ。

「でもっ、……私は子を宿せませんよ。」
「子どもなんて要らないよ。二人で生きていけばいいじゃない」

ぼやける視界に帝人の毛先を捉えながら確かめる。
嬉しくて、でも不安で何度だって問いかけてしまう。

「でも、」

「正臣は僕と一緒は嫌?」

「え?」

けれど、逆にやってきた問いに慌てて上を向けば優しい顔がそこにはあって。

「嫌じゃ、ないです。私も、帝人様と一緒がいいっ……!」

自然と言葉が零れた。
さすれば帝人は満足げに頷いてから、正臣の頬に手を添える。
そしてそのまま徐々に近付いてくるのを感じて瞳を閉じるのだった。










110303



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