引きずられたのはビターな想い
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バサッと制服を脱ぎ捨てて部屋着に着替えた。
そしてパソコンの前に腰を下ろして立ち上げる。
複数のアルファベットを瞳に移しながらそれを待った。

「ああ、抹消リストを洗い直さなきゃ。リストの中に彼奴が入ってたか確認しなきゃいけないし。」

そう呟いた彼はもう優等生の面影を残していない。
そこにいるのはただの「ダラーズ」のリーダーであった。

ようやく起ち上がったパソコンからダラーズのサイトへと直行する。
そういえば最近ではあの入り浸ったチャットルームに顔を出していないな、と気付きながらも、あと暫くの間は行くつもりさえなかった。

(だって、あそこには正臣が居る。)

バキュラ、というハンドルネームで参加している幼馴染み兼恋人……とは言っても恋人に関してはもう二月近く音信不通のため、元、を付けた方が良いかもしれない。
帝人はその彼がいつ池袋に帰ってきても良いように居場所を作ろうと、ダラーズを調整しているのだ。
それが完成するまではとてもじゃないが格好がつかなくて会えない、そう考えている。
けれども、早く会ってあの金髪にも茶髪にも見える綺麗な髪の毛に指を差し込み、細い腰を掻き抱きたいという欲望が帝人を急かしていた。
だからここ最近ではほとんど学校でもダラーズの事を考えていたし、絶え間なく青葉を始めとするブルースクエアのメンバーとコンタクトを取るようにしていたのである。
そのことによって友達が減ろうが、クラスで浮こうが帝人にはさして大きな問題ではないように思えていた。
なぜなら自分がこれを成功させれば、一番会いたい人に会えるから。
そのための努力は惜しみたくなかったし惜しまなかった。
ダラーズの掲示版を眺める。
ここにはいつだって非日常が溢れ、帝人を楽しませていた。
しかし、それは昔の話。
今は抹消する対象を探す場所でしかない。
自分の正義をものさしに必要性の無いメンバーを書き留めて行く。
その作業は思いのほか時間が掛かり、時刻は既に午前2時を回っていた。
と、ドアが小さくノックされる。
その控えめなノックに誘われ、フラフラとドアの前へと行き、覗き窓から誰かを確認した。
そして驚く。

「まさ、おみ……?」

そこには切望していた彼の姿。
ドア越しの彼は、白いマフラーを巻いて真っ赤になった手を摩って暖をとっていた。
その髪は以前と同じ綺麗さで、サラサラと風になびいている。
そしてその腕に下げられている袋を見た瞬間、扉を解き放って抱きしめたい衝動に駆られた。
赤いハートのついたバック。そしてそこからチラチラと見え隠れする可愛いラッピング。
そういえば昨日はバレンタインデーだったと記憶を掘り返す。

「みかど、起きてる?」

と、ドア越しに声をかけられてビクリと肩を跳ねさせた。
けれど幸い音を出す事は無かったため、正臣にはバレていないらしい。

「こんな時間だから、起きてないか。」

何も返事が無かったために彼は嘲笑気味にそう言うと、じゃあ勝手に喋ろうと呟き、言葉を並べ始めた。

「俺はさ、勝手にお前や杏里の元から消えたのを申し訳なく思ってる。いや、逃げたんだ。俺の黄巾賊としての姿を見られて動揺したんだと思う。だから沙樹という俺を迎えてくれる家族の場所に逃げ込んだんだ。こんな俺に幻滅するかもしれないし、俺のことなんて嫌いになってるかもしれない。けど、だけど俺は、まだ帝人が好き。いつも一緒に居た時はこんな恥ずかしい事言えるかなんておもってたけど離れてから分かったんだよ、お前の存在の大きさが。ずっと、ずっと近くに居たから分かんなかったけど。でも、俺にはお前しか居ないんだよ。今日だって気が付いたらチョコレート作ってて、お前の家の前に居て。本当、バカみたいだよな俺。でもなんか捨てるのとか勿体ないからさ、置いとくし食べといてくれよ。美味くないかもだけどさ。だってほらチョコレートなんて作るのはじめてだもんよ、俺。」

頬を掻いてそう締めくくった正臣は、ぶら下げていたチョコレートをそっとその場に置くとドアに背中を向けて立ち去って行く。
今なら遅くない。部屋を飛び出して駆け寄れば彼を抱きしめる事が出来る、そう思ったけれど、ドアにを開けるための一歩が踏み出せなかった。
そして完全に彼の姿が見えなくなった瞬間、ドアノブを回して外に出る。
そしてその場に置かれたチョコレートを手にとって家の中に入った。
綺麗にラッピングされた箱に入っていたのは焼きすぎたハート型のクッキーと、歪な形をしたトリュフ。

「本当、正臣は馬鹿だよね。」

トリュフを掴み口の中に放り投げゆっくりと咀嚼する。
すっと溶けていくそれは、甘いのが苦手な帝人の為にかビターで。
「もう少し、待ってて。きっと僕が……」
ほろ苦さを噛みしめながらそう誓うのだった。



引きずられたのはビターな想い

(君が帰ってこれる場所を用意するから)(そうしたら真っ先に抱き締めさせて)


バレンタイン記念
エロエロなのは他の方が書いて下さると思うので切なめ使用です。


110213



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