「静寂」
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しばらく三人が互い違いに抱き締めあった後、そういえば、と先頭を切って話し始めたのは臨也であった。


「俺に何か用事があったんじゃないの?」


ゆっくりと手を膝の上に戻しながらそう問えば、ポンと手を打つ帝人。
正臣も実を言うとずっとそれを気にしていたのだ。
じぃっと彼の瞳を見つめれば、ポリポリと頬を掻いて言う。


「忘れてたよ。あまりに正臣が可愛かったから、ね?」


「なっ・・・!」


「ははは、本当ラブラブだねぇ」


チラリと正臣を見返し意地悪く微笑む帝人と、顔を真っ赤にして俯く正臣。そんな正臣の頭を自分の胸元に抱き寄せ伸びた髪を撫でながら再び口を開いた。


「前置きは取り敢えず省略させてもらうね。兄さん、恋人は見つかった?」


「正っ・・・!」


何気なく吐き出されたその言葉に正臣は顔を思いっきり上げると帝人と臨也の顔を交互に見る。
すると二人とも、表情を何処かに隠してしまったかのように無表情・・・いや、感情を押し殺したような表情をしており、正臣は背中を冷たい汗が流れたような気がした。
ドクン、ドクンと心臓が波打つ。
何に対してかは分からなかったが、とにかく緊張しているらしい。

そして広い部屋にフウと響いた臨也の声に一瞬呼吸が止まったような気がした。
次いで再び高鳴り始めた鼓動に身体中が心臓になったような錯覚を受けながら彼の顔を凝視する。
その視線に気が付いたのか臨也は少し微笑むと口を開いた。


「そうだね、見つかったよ。」


さらり、と。実に自然に流れ出したその言葉を正臣は一瞬で理解することは出来なかった。
彼は正美を、ついに見つけたのだという。
そう自覚した途端、グルグルと頭の中を巡り始めた様々な思い。
けれどもそれらの思いを整理するより早く口をついて出た言葉はそのどれでもなく、正臣の心の奥の奥を映し出したような単純な疑問だった。


「正美は元気ですか?今何処に・・・?」


「ああ、元気だったよ。今は俺が所持してる所謂『庶民の家』に住んでる。」


「そうですか・・・」


その返答に脱力する。正美が無事だと知った瞬間に様々な思いはなりを潜めてしまったのだから自分は本当に姉が好きだなと呆れた。
あれほど悩んでいたというのに、あの醜い感情はいったい何処へやら、という感じである。
しかし不安は残ったまま。
不安とは勿論彼らと自分の将来ことである。
彼女が見つかったということが世間に広まれば彼女と帝人は再び婚約関係を結ぶことになるだろう。
今のところ、正美と臨也が恋人だということは広まっていないから。もし広まれば帝人様との婚約は破棄されるかもしれないが、どちらにせよ紀田家と天皇家のつながりは保たれる訳で。
そうなれば、最早正臣は要らない存在―――お払い箱というわけだ。
また両親の中での存在を消され、家から出ることを許されくなり、あの家で言わば囚われの身になるのだと思うとぞっとする。
そして何より、帝人とはもう二度とあわせてもらえないだろう。
それが何よりも辛かった。

そんなことを考えていたために黙りこくってしまった正臣を不振に思ったのか帝人が頭に手を載せる。
そしてポンポン、と優しく叩くものだから、思わず涙がこぼれそうになった。

そして訪れた静かな時間。
帝人も正臣も臨也も、誰も動くことさえしなかった。
その静けさは、まるで嵐の前のような何かを感じさせるものであったのだった。










101113



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