「義兄」
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「兄さん久しぶり。調子はどう?」

「お陰様で快調さ。」

「それは何よりだよ」

形式的な挨拶を交わす二人を交互に見ながら、正臣は良く分からない汗が背中から吹き出るのを感じた。
歴代天皇の中でも取り分け異質なこの兄弟。一人一人が頭脳明晰眉目秀麗という男性の望みの全てを一身に詰め込んだ所謂才色兼備兄弟が揃ってしまっているのである。変な汗をかいたって仕方のないことだ。
フルリ、と遂に表面に出て来た震え。正臣の肩を抱いていた帝人はそれに気づくと眉根に皺を作った。

「大丈夫?さっき雨に打たれちゃったから・・・風邪ひくといけないよ。」

そういって部屋の中にあった着物を被せるとギュッと抱き締める。
正臣はほっ、と息を吐いた。どうやら自分が震えた理由には気付いていないらしい。さらに、丁度肌寒かった所だったので彼の優しさに少し甘えさせて貰うことにした。
そうして大人しく帝人の腕に収まった正臣を見た臨也は一瞬驚いたような表情をして見せた後にニッコリ笑う。

「上手くやっているみたいだね。」

そして今度は正臣が目を見開く番である。あの竜ヶ峰家の臨也様が優しく笑った、と。
臨也は誰よりも頭の回転が速く、非常に計算高い人間であった。
そのためか、いつしか彼は笑顔でさえも計算されたものになり、何時も微笑に似た嘲笑を携えていたのである。
それなのに、だ。今彼は優しく笑ったのだ。きっと見たことがある人の方が珍しいぐらいの、優しさの籠もった笑み。
きっと、この笑みは本当に大切な人のための物なのだろう。そう、例えば最愛の弟である帝人の。
そんなことを考えていると、何故だかフワリと胸が暖かいものに包まれる感覚に陥った。
果たしてそれは義兄となるであろう彼の柔らかい面を見たからか、それともその笑みが正美に向けられているのだろうという確信に近い予感がしたからかは正臣には分からなかったが。

「えへへ、ありがとう。」

と、そこで照れるような帝人の声を聞き思考を停止させた。そしてただただ彼が自分と上手くいっていることを喜んでいるという事実に喜ぶことにする。
意識せずとも顔面に集まってきた熱が冷えた身体に暖かい。

「二人とも照れてるじゃない。何だよ可愛いなぁ。」

サッと立ち上がった臨也はスタスタと近づいてくると両腕を大きく広げて二人纏めて抱きしめた。
その感覚が柔らかくて、心地良くて思わず笑えばそれにつられて二人も笑い出した。

そうしていつしか、当初の張り詰めた空気は消えて無くなり、変わりに柔らかな、まるで春のような空気が流れていたのだった。








101031



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