Sucre excessif ―――――――
臨也がそれを発した途端うるり、と歪んだ正臣の瞳。苦しげに歪められた眉間には幾筋もの線が入っている。 今にも泣き出しそうなのに、それでも迫り来る何かを堪えるかのように唇をぎゅっと噛み締めて、ブンブンと頭を振るものだから嘘だと言うタイミングが無くなってしまった。 「正臣くん、」 とにかく震え出した肩を抱こうとして手を伸ばしても、バシンと払い落とされてしまう。 「ふれ、るなっ」 そして彼の唇がやっとの事で紡ぎ出した言葉は明確なる拒絶で。行き場の無くなったその手をどうすることも出来ずに宙をさまよわせた。 「正臣く、」 「あんたはっ、」 そして俯いた彼から発されたのは、哀しみがありありと感じられる心の叫び。 「あんたは結局、俺との事なんて、どうでも良かったんだっ!あんたの愛なんて、どうせっ、どうせ俺なんてっ」 そこから先は言葉にすることなく押し黙ってしまった。 肩は震えるが、零れる事のない涙が悲しくて、居ても立ってもいられなくなり、再度彼に手を伸ばす。 と、今度は拒まれることなく彼の肩へと手が届いた。 あからさまに跳ね上がる肩を気にすることなく引き寄せ抱き締めれば何の抵抗もなく収まる身体。 それから一呼吸置いてやってきた抵抗を甘んじて受け止めながらも手に込めた力は緩めなかった。 そうすればいつしか抵抗は止み、胸元にすがりつくように添えられた手だけが残る。 大分落ち着いてきたらしい。このタイミングを逃してはならないと思った臨也は自分に顔を埋めている少年の耳元に口を近づけると、己の犯した罪を告白しはじめた。 「ごめん、ごめんね正臣くん。」 突然の謝罪にびくりと身体を震わせる。そんな彼の華奢な背中を再度抱き締めると再び言葉を紡ぐ。 「ちょっとした出来心だったんだ。もし俺が覚えてないと言ったら君は一体どんな顔を見せてくれるかなって。」 まさか、そんな顔をするとは思わなかったけど。と苦笑しつつ、だけど、と続けた。 「俺はさ、確かに君の色んな表情が見たいけど、そんな苦しそうな顔は知りたくなかったな。」 そしてこの喧騒を止める決定打を。 「だって、君はあの時よりもずっとずっと辛そうな顔をしている。」 その言葉に耳まで赤くなった彼はバッと臨也から離れると両手で顔を覆った。 あの時とは即ちブルースクエアとの構想のときのことである。彼が彼自身を失い、さらに臨也から裏切られたあの時は、確かに正臣の中で悲しみの大きな出来事だろう。しかし、それよりも悲しそうと言うことは即ちそれである。 隠すのならば離れなければ良いのに、なんて思っていれば、覆ったその向こう側からくぐもった声が聞こえてくる。 「それはっ、だ、からっ俺は、っ・・・臨也さんがっ、」 すき、だから。確かにそう紡がれたその言葉は普段の彼ならば言うはずも無い告白の言葉。 「知ってるよ。」 そして臨也から紡がれた言葉もまた普段の彼からは想像できないくらい素直な言葉で。普段の二人とはまったく違うその状況に互いに頬を緩ませた。 「じゃあ言わせるなよ。」 「聞きたかったんだよ。」 「ばかだろ・・・」 そして徐々に普段と同じ会話へと戻っていく。 「馬鹿で良いよ。正臣君に好きって言ってもらえるならね」 「っ・・・・馬鹿だ!臨也さんはばか!」 「知ってるってば」 「でも、そんな臨也さんが、・・・・好き。」 「俺もだよ。」 けれども一度折り混ぜられた砂糖が消えることは無く、普段はない甘みを振りまきながら解けていった。 (正臣、好きだよ)(正臣って呼ぶな。そう呼んで良いのは後にも先にも帝人と沙紀だけだ)(酷いなあ・・・まったく。) 原作でも、正臣は少し出れてくれたって良いと思うんだ。ツンデレな正臣を読んだり書いたりすると、その反動でデレ正臣が書きたくなる、そんな秋の夜更けです。 あと、いつもとは違う形式で書いてみました。たまには気分転換にこんなのも良いかなと・・・。 題名はフランス語で「糖分過多」という意味です。 ――――――― |