「朝廷」
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今日の行政を執っている国内最高峰の機関こと朝廷。
一般人なら決して入ることを許されないようなその場所を二人は歩いていた。
実の所朝廷に入るのは初めてな正臣。こんな所に足を踏み入れられるなんて、という感動と、自分はここに居て本当に良いのだろうかという疑問、さらには隣にいる帝人に迷惑をかけてはいけないという緊張でどうにかなってしまいそうである。
さらに道行く大臣や侍女達がこぞって挨拶してくるのだから気が動転し、何が何だか良く分からなくなった。
と、不意に左手に違和感。肩を抱いていない方の帝人の手である。
慌て見上げれば、にっこりと微笑む彼の姿。

「落ち着いて、大丈夫だよ。」

ギュッと手を握りながらそう言うと、指と指を絡めてより密着させた。
するとたちまち先刻までの嫌な胸の高まりは収まり、変わりに暖かな気持ちにまでなるのだから不思議である。
コクンと頷くと、今度は肩を抱かれていた方の手で頭を撫でられた。

「ほら、あとちょっとで着くから。」

そう言われ顔を上げれば、成る程確かに今までの場所とは少し違う雰囲気を醸し出している。

「あの、どこへ・・・?」

「行けばわかると思うよ」

と、目の前に現れた障子に目を奪われてしまった。しかし、それは仕方が無いことである。だれだってまさか黒い障子が現れるなど夢にも思わないだろう。自分の家、いや、どこにも見たことのないそれは、噂に聞く唐の魔術師とやらを彷彿させた。

「入りますよ。」

そんな正臣には気付かず何の躊躇いもなく開け放たれたドア。
そしてその瞬間に視界を照らした強烈な光に思わず目を思いっきり瞑る。
もしかしたら何か攻撃が来るかもしれないと少しの間気を張っていたのだが、それは杞憂に済んだらしく恐る恐る瞳を開いた。すると目の前には普通の―――というには少し大きすぎるかもしれないが―――和室が広がっていて、その奥に小さく人影が見える。

「やあ、弟とそのお嫁さん。そろそろ来る頃だと思っていたよ。」

そう。そこにいたのはあの時家にいた、天皇家竜ヶ峰の長男である青年だった。














101021



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