雨、雨、雨。
空から落ちてくる透明な雨粒を見上げながら自分の肌にぶつかる感触を楽しむ。
頬と髪から滴り落ちる雨粒は少し重みを持っていてそれが大変安心感を感じさせた。
と、不意に視界が黒一色に染まる。雨とは違うしっかりとした質量を持ったそれは、やがて正臣の顔をすっぽり覆うこととなった。
「ぶふっ、」
何事だと思い鼻をすんとすすると何か気品溢れる匂いにぶつかる。
知りすぎているその香り。慌ててそれをめくり上げればやはり目の前にいた彼の上着が無くなっていて白の着物が雨で濡れていた。
「み、帝人様!お召し物がっ、」
慌てて駆け寄り自分に掛けられた上着を返そうとするも片手で制されてしまう。
そしてその服を逆にすっぽりと被せると正臣の片手をひいた。
「僕が濡れるのよりも正臣くんが濡れる方が問題だよ。」
スタスタと歩きながらそう言うと正臣は酷く困惑した面持ちになる。
「でも、風邪を召してしまいますから!」
「その時は君が看病してくれるんでしょ?」
「っ、」
思わず言葉を詰めて俯いてしまう正臣。耳は真っ赤に染まり、手だって体温が高くなっているのがわかった。
しばらくはそうして互いに無言のままで歩く。しかし不意に帝人が正臣を振り返った所でそれは終了となった。
「正臣、くん。」
「は、はい!」
名を呼ばれたためにバッと顔を上げる正臣。しかし目の前にあったその建物に目を見開く。
「朝、廷ですか・・・?」
「うん。さっきの場所からは一番近い場所にある安全地帯だからね。雨宿りも兼ねてちょっと最新情報を仕入れに行こうか。」
そうにっこり笑うと正臣の手を離し、変わりに肩を抱いた。
「えっ、え?」
戸惑う正臣にくすりと笑うと帝人は耳元で囁く。
「正臣君が僕の服を着てるのは流石に不思議な光景だろうからね。寒そうにしていた君をたまたま見つけたっていう設定で奥の間まで行こう」
そうして一歩を踏み出していくのだった。
101018
101020 加筆修正