もう怖くはない
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静雄の言葉に嘘だと呟いた正臣はゆらり、と金髪のその髪を揺らす。
そしてぎゅっと重ねていた両手を口元に持っていくと、ちゅっと小さく接吻を施した。

「・・・!?」

そんな正臣の行動に驚き慌てて手を引こうとするが、静雄と同じ力を持つ彼の手がいつものように簡単にほどける訳も無く、再度強く握られてしまってはもう抵抗しようがない。
諦めて力を抜けば、その瞬間を待っていたかのように正臣は口を開いた。

「俺はさ、静雄の事なら大抵の事がだいたい分かるんだ。だからこそ静雄のためになりたいと思う。だけど、それだって限界があんの。だから、静雄が言ってくれなきゃ分かんないんだって。」

そう言って首を傾げ、言ってくれるか?なんて。
狙っているとしか思えないその動作でさえ彼の可愛らしさを引き立たせるだけだなんてズルいと思う。ズルいとは思うが、それもまた彼の魅力の一つなのだろうと思い返し頬を緩めた。そして、同時に天真爛漫で純粋な彼になら、と思う。自分から決して離れることのないであろう彼になら、今の気持ちを素直に吐き出せそうだと確信めいた何かを感じた。

「怖ぇんだよ」

しかし意を決して口を開いたはずなのに、思いのほか震えた声が零れる。自分の気持ちを言葉にすることで、それが本当になってしまうような気がして怖くなったのだろうか。
他人に弱音を吐けば、自分が実はとてつもなく弱い人間なのではないかという不必要な不安に陥れられる感覚に陥ってしまう。その不安は言葉を紡ぐたびに心の中で増長し増幅して自分を蝕んでいく、そんな気がするのだ。
それでも、と静雄は思う。
自分は立ち向かうと決めた。正臣に話そうとした瞬間、確かに自分は弱い自分をさらけ出そうと決心したのだ。
不安や恐怖から勇気を拾い上げる。
そして、今度こそしっかり伝えようと顔を上げる。
その瞬間、黒い何かが視界で揺れた。よく見れば、向かいに座る彼の髪の毛が黒くなったようである。
静雄と正臣。この二人の翠の髪が同調し、揺れて、よく分からないけれども何故だか何かで彼と繋がっているような気がした。
そしてふと顔を上げる。金髪の彼も美しかったが、黒髪の彼もこの世のものでは無いかのような美しさを醸し出しているような気がして頬が少し熱くなった気がした。
と、いつの間にか凝視してしまっていたらしい。
正臣はこてんと首を傾げた後にあぁ、と自分の髪をつまみ上げゆらりと揺らし、ふふふと笑った。

「今の静雄に同調するために黒に変わったっぽい」

やっぱり同調するならまず見た目からだしな、なんて。
ではその可愛らしい姿は、とは静雄は言わなかった。自分とは違うその姿だって、変えようと思えば変えられるのだろう。しかしそれでも変わらないのは、彼が何か思うことがあるのだろうと思ったから。

それよりも彼が自分を理解してくれようとしているというその事実が嬉しくて、今度こそちゃんと話そうと決心する。

自分の弱い部分だって、彼は嫌がることなく受け止めてくれるだろう。
そう確信しながら。






もう怖くはない





二人分の翠の髪が


ゆらりと揺れ乱れ絡まり合って



離れられなくなれば良いのに






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