初めての積極的な彼に心臓な大きな音を立てて鳴り響く。
啄むような、それでいて慈しむようなその口づけは酷く幼稚なものなのに何故これほどまでに胸が高鳴るのだろうか。
合わせるだけの口づけも、彼とのそれだというだけで甘くとろける気がした。
「みかど、さまっ・・・ん・・・」
恋慕など一度も感じたことのない正臣にとって口づけなどというものは勿論初めてなわけで。
肌の一部分を合わせているだけなのに何故こんなにドキドキするのだろうか、もしかしたら自分は今ドキドキしすぎて死んでしまうのではないだろうかと心配する。しかしそれならそれで良いかもしれないと満たされた気持ちに落ち着いた。
暫くして解放される唇。はぁっと双方から吐かれた息が絡み合うのさえ恥ずかしくて思わず俯く。
くすぐったい沈黙。さぁ、この沈黙をどう回避するべきかと話題を探っていると、口づけ直前に言われた言葉を思い出した。
「あの、帝人様・・・」
「ん?」
恐る恐る声をかけたわりに気の抜けた返答を返され、何だか一気に肩の重荷が降りた気がする。もう怒ってはいないのだろうとホッと一息ついてから、ゆっくりと口を開いた。
「あの、先程のお言葉は・・・?」
「先程って?」
「えっと、全部知ってる、というのは」
「あぁ、あれか。」
何の話かいまいち分かっていなかったらしい彼はポンと手を叩くと柔らかい微笑みを浮かべる。そして正臣の頭を優しく撫でながら言葉を紡いだ。
「僕はね、正臣さんが凄腕の剣使いだってことも、両親に今まで相手をして貰えていなかったことも、本当は正美さんの身代わりとして僕の相手をしていることも知ってるよ。そして、君が女性じゃないことも、ね。」
「嘘・・・いつから・・・」
思わず漏れた言葉に微笑みを向けると、再度口を開く。
「最初から、かな。」
その言葉に正臣は愕然とした。だってそうだろう。自分を頑張って偽って、罪悪感に苛(さいな)まれながら一緒に居たのだから。それなのに、それが初見からバレていたのだという。必死に演技してバレていないと信じ切っていた分、やりきれなさと恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
「最初って、初めて屋敷で合った時からですか・・・?」
かぁぁぁっと赤く染まった正臣を見て、帝人は頬を掻く。
「えっとね、それより前、かな。」
「・・・?」
その言葉に今度は正臣が疑問符を浮かべる番だった。
「僕がちっちゃい頃から知ってるんだよ。正美さんに会いに来てたとき、ずっと君が竹刀を振る姿を見てたんだ。凄いな、って思ってたよ。僕は天皇家の人間だから、そういう事をさせて貰えなかったから、凄く羨ましかったし、同時に輝いて見えたんだ。」
つらつらと心の内を告白され、正臣は戸惑う。そしてこれ程までに彼が喋っている姿を見るのは初めてで、圧倒されてしまった。
「ねぇ、正臣さん・・・いや、正臣くんは僕のこと好きかな?」
と、あまりに唐突な問いかけ。反射的に頷けばあはは、と笑った。それから深呼吸をすると、急に真面目な表情へと変わり真っ直ぐ正臣を見つめる。
「僕も、君が好きだよ。初めて見たときからずっと好きだったんだ。所謂一目惚れってやつだよ。」
正臣は声を出すことが出来なかった。
驚きの連続で、一瞬何を言われたのか理解できない状態荷なる。しかし心ではなんとなく理解できていたらしく酷く胸が高鳴っていた。
彼は自分を好きだと言う。
しかもその好きは、偽った自分ではなく、素のままの、男のままの自分へと向けられていて。
思わずポロリと涙が零れた。
「泣かないでよ、困るでしょう?」
壊れ物を扱うかのように優しく優しく抱き締めて、苦笑する。
「だって、嬉しっ・・・!」
しかし一度流れ始めるともう止まらないらしく、ボロボロ落ちていく涙は二人の服を濡らした。
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