精霊。
精霊セイレイせいれい
脳内で精霊という文字がぐるぐる回る。
信じたくなかった。
精霊だということは、即ち元は自分と同じ個体と言うことで、言い方は悪いが、要するに自分の魂の派生だと言うことだ。
となると、自分の魂に自分が恋に堕ちたと言うことになるのだろう。
自分の力を受け止めることが出来るのはやはり自分だけなのかと思うと少し悲しい気持ちになるが、それでも静雄はめげなかった。
魂が何だ、と自分に言い聞かせる。
こんなに愛らしい彼が、自分と同じ訳がないと。魂は同じでも全てが同じ訳ではないと。
正臣を抱き締めて首筋に顔を埋めれば、自分とは違う匂いがする。
ほら、やっぱり自分とは違うんだと微笑んだが、続いて背中に回った腕の強さに表情が変わる。
この強さを知っていると。これは幼少時代に培われた自分の力のそれだと。
「わるい、正臣」
気が付けば口から謝罪の言葉が転がり落ちた。
「何で静雄が謝るんだ?」
首を捻る彼が疑問を紡ぐ。
「静雄は俺に悪い事してないよ。」
そしてふるふると頭を振って、じっとこちらを見つめながら、何でと。
「だって、俺がお前にこの力を・・・」
けれども静雄はそこから先は言葉にできなかった。じいっと手のひらを見つめて押し黙る。
と、そっと指先に重なる彼の手。
そっとそっと、優しく優しく包み込まれてはっとする。
「俺はね、静雄。静雄が力をつけてくれて俺はよかったんだ。だってもし暗がりでこけても怪我はしないし、頭をぶつけてもたんこぶなんてできない。だから、俺はこの力に感謝してる。」
一度言葉を切ると、静雄を見上げてにっこりと微笑み続けた。
「それにさ、力なんて持ってて損は無いんだぜ。静雄は後、制御できるようになればそれでいいんだ。」
そう言って、ね?と首をかしげる彼。静雄は目を大きく開けたまま固まっていた。
自分と同じ力を持っているはずなのに、なぜこんなにも優しく握ることができるのだろうか。
そして気がつく。
俺だって、俺だって、できるかもしれない・・・と、
しかし、脳内に響く声がそれを否定する。
『本当に、できるの?あなたは何度だってそう言ってはあきらめてきた。そうでしょう?力ばっかり強くても仕方ないの。力が無くなれば、あなたはただの弱虫でしかないわ』
気が付けば身体が震えていた。
ガタガタと震えて震えて冷や汗が出る。
きっと、図星だったからだと脳の冷静な部分が判断した。
すると先程から手を握っていた正臣は敏感に気が付いたらしい。
「し、静雄、どうしたっ・・・何で震えてるんだ・・・?」
「あ、いや、何でもねぇよ、」
「嘘だろ、なぁ、静雄・・・」
そう言って眉根を寄せると泣きそうな顔をして呟いた。
「全てをさらけ出してよ」
涙で頬を濡らしながら微笑む君は
今、きっとだれよりも
優しい顔をしていただろう