「決意」
―――――――




結婚の儀とは、即ち男女の契りであった。
貴族の結婚の条件とは婿となるものは妻となる女性の元へ三晩通い、三日間連続で契りを交わすのである。そして四日目の朝に男性は烏帽子をかぶり、女性へと会いにいく。こうして結婚の儀は結ばれる事となるのだ。
そして正臣が酷く心配しているのが三日連続で契りを交わす部分である。
契りを交わすと言うことは即ちソウイウこと。
今までは着物などで隠せていたが、これからはそうとはいかない。しかし、婚約を破棄することが出来るはずもない。
そう、だから正臣は覚悟を決めるしかなかったのだ。

(言おう。)

正臣は心で呟く。

(もう帝人様に隠し事はしたくない)

(もし帝人様に嫌われてしまったら、)

そこで一度思考を切ると、一度瞳を閉じた。少し迷うような素振りをみせてから、再度瞳を開ける。
その瞳に、迷いはもう無かった。

(そうだ。もし、そうなってしまったら、死ねばいい。)

(どうせ、もう帝人様が居ない世界で生きることは俺には出来ないんだから。)

そこまで考えてから、頭を上げた。
そして身支度を済ませるために自室へと向かう。
いつもは侍女に手伝ってもらうのだが、今日は自分一人でしようと思い、洋服箪笥を開ければ、いつの間にか増えていった女物の着物の山。男物とは明らかに違う量のそれに複雑な笑みがこぼれた。

幾枚もあるそれらの中から、彼が褒めてくれたものを羽織れば幸せに包まれる気がする。
そして鮮やかな赤の帯を締めると、近くにあった刀をそっと挟んだ。
そして、伸びた髪を優雅に結って、扇子を持ち、そのままこっそりと屋敷から飛び出す。
走れば人の目に留まるため、ゆっくりゆっくり歩いた。そして、帝人が昔紹介してくれた場所へと向かう。
何故だか分からないが、今はそこに居るようなきがしたから。
それに、許嫁とはいえ皇居に入り込むのはさすがに気が引けたというのもあるのだが。


しばらく歩くと記憶と同じ風景が眼下に広がる。
一面に広がった緑、爽やかに通り過ぎる風。
目下に広がる田畑。
その全てがあまりに美しくて思わずため息が漏れた。
酷く柔らかいその緑に身体を預けたい衝動に駆られたが、それは駄目だと自分に言い聞かせる。
こんな時、自分が男として振る舞えたらどんなに楽だろうと思うが、男のままならば、きっとこの素敵な場所を知ることは未来永劫無かったのだろうと思えば酷く複雑な気分になった。

そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか一本の木の下へとたどり着いた。
こここそが帝人様のお気に入りの場所。
国を一望できるのだと自慢げに話していたのを思い出す。
そしてゆっくりと見上げると、上の方に人影を見つけた。
















100926


[作品top top]




―――――――



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -