それからずっと二人でわんわん泣いて、泣いて、泣き叫んだ。
何に対して、どんな感情を持ちながら泣いたかなんて分かっていない。ただ分かったのは、思いっきり泣いて、泣いて、涙でぐっしょり濡れたお互いの頬を見た瞬間に胸の奥がほっこりと暖かくなったことだけだった。
「へへ、しずおの鼻真っ赤だぜ?」
ズズッと鼻をすすりながらそう言って笑う正臣だって十分に真っ赤で、思わず吹き出してしまう。
「な、何だよう!」
「いや、そういう正臣は頬も目尻も真っ赤だなと思ってな。」
ゆっくりと指を伸ばして涙の跡をなぞり、真っ赤に腫れてしまっている目尻にゆっくりと触れればピクン、と肩が震えた。
「だって、俺こんなに泣いたのも初めてだもん」
ふにゃりと笑う彼は酷く可愛らしく、思わずぐいっとひっぱって自分の胸元へと引き寄せる。大人しく収まった彼はそろそろと静雄の背中へと腕を回しギュウっと抱きついた。
「正臣は初めてばっかりだな」
苦笑しながら呟けばこくんと腕の中で頷く少年。
「だって、俺ずっと一人だったし」
心なしか抱きつく力が強くなった気がした。
「ずっと俺が居る場所以外は真っ暗だったんだ。一足先は真っ暗で、何も見えない。その先は崖かもしれないし、壁かもしれない。そんなふうに毎日怯えながら暮らしてた。幸運なことに崖から落ちたことは無かったけどさ。でも、その壁も何かのきっかけで取り除かれていったんだ。なぁ、静雄はそのきっかけ、何だと思う?」
少しダークな話の後に唐突に問いかけられたソレ。驚きからだが揺れたことが分かったのだろう。正臣はクスクスと笑うとバッと上を向き、微笑む。
「静雄だよ。きっかけは、静雄。」
「は?」
正臣が何を言っているのか分からない。きっかけが自分とはどういうことなのだろうかと首を傾げればだからね、と口を開いた。
「静雄の成長がここを広くしていったんだよ。静雄がいっぱい成長したからこの綺麗な泉だってできたし、静雄が通ってきた道も出来たんだぜ?」
静雄の成長は俺にたくさん遊ぶ場所を与えてくれるんだ、とにっこり笑う。そして再度ボスン、と静雄の懐へと顔を埋めるのだが、静雄には理解が出来なかった。何故自分の成長がこの場所を広くしたのか、何故この少年は自分が来る前までどのように過ごしていたのか、彼は知らないことだらけであった。
そして、最大の謎は、ここが何処なのか、と言う事である。そう言えば自分の手足を見れば明らかに小さくなっていたではなかったか。再度確認してみれば、それはやはり現実で、急いで自分の髪を引っ張ってみれば染める前の茶色に戻っていて。
「正臣、」
ふつふつと浮かび上がってくる疑問をそのまま胸の中にしまっておく、なんてことは静雄には出来ない。
「なあ、ここは何処だ?お前は一体、」
何の戸惑いも無く発されたソレに、正臣もさも当然だ等言う風に音を紡ぐ。
「静雄の精神世界。俺はそこの精霊みたいなものだよ」
そして静雄は直ちに後悔することとなるのだ。
がん、と目の前が暗くなるような気がする。
同時に胸が酷く痛んだ。
ギュウ、と握り込まれた感覚に陥る。
そして思い出したのだ。
この感覚を知っていると。
青年は精霊に恋した
この思いを俺はどうやって君に伝えれば良い?
両手を伸ばせば伝えられるだろうか
君が好きなのだ、と。
そもそもこの気持ちを伝えるのは正しいことなのか
それすらもわからない・・・・