好きなはずないでしょう
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「本当、正臣くんは俺のことが好きだよねぇ。」

コトリ、と置かれたコーヒーカップには半分程の量になったコーヒーが注がれている。
臨也の好きな銘柄の豆を丁寧に挽き、臨也の好きなカップに臨也の好きな濃さで、甘さで美味しく淹れられているそのコーヒーからは美味しそうな香りが漂っており、これから愛を感じずに何を感じるんだと臨也は主張しているのだ。
しかし臨也の目の前に居る正臣は大変嫌そうな表情をしており、心なしか眉根に寄せた皺が濃くなったような気さえしてくる。

「あんたが何故そう言う結論に至ったのかは分からないですし、あんたの思考回路に何て甚だ興味なんぞ無いので知りたくないですけど勝手に変な妄想をしないで下さい。非常に迷惑です。」

「でもさ、普通嫌いな人間の好みの味なんて覚えないだろう?」

「それはあんたが俺のコーヒーにいちいち文句つけてくるからでしょう。勘違いしないで下さい」

カップの乗っていたお盆を抱えながらそう言い捨てて、正臣はキッチンへと戻って行った。無造作に結ばれたエプロンの紐がぴょこぴょこ揺れていて何だか面白い、と臨也は思考の片隅で思いながらその後ろ姿を眺める。
実は彼の優秀な助手であり、家事までもを担当している波江でさえ彼のストライクゾーンなコーヒーを淹れられることは無いのだ。それなのに自分を嫌っているらしいこの少年はいとも簡単にドストライクなそれを淹れて見せたのである。そういう器用な所と誰にでもそうしてしまう少し不器用な所を併せ持っているところも彼の魅力のひとつだと臨也は笑った。

「何笑ってんすか、気持ち悪い」

すると間髪入れずに飛んできた罵倒にやはり笑う。

「酷いなぁ。人を捕まえて気持ち悪いなんて。一応俺は眉目秀麗が売りなんだけど?」

「たしかに顔だけは良いですよね、顔だけですけど。」

つられてクスクス笑った彼が再びリビングへと戻ってきたのでそのまま手を引いて自分の腕の中に納めてみた。

少しの沈黙の後、我に返ったのか暴れ始めた彼をさらに強く抱き締めて耳を一舐めすれば見て取れるほどに身震いする。それから赤くなった頬を隠すことなくキッと睨みつけられ苦笑した。普段なら睨まれることは嫌であるのに、何故彼に限ってはそれすらも喜びにかわる。

(本当、不思議な子だよ。紀田正臣。)

脳内で呟いてやはり笑う。それから、でもそんなに悪くないな、なんて口に出せば何がですか、俺は大変よろしくないです、などと憎まれ口を叩いた。

「素直じゃない君も悪くないよ」

「黙れ眉目秀麗」

「何その誉めてるのか貶しているのかわからない言葉」

「安心して下さい。思いっきり貶しています」

「だろうね。なんせ君は素直じゃないんだから。」

「だから俺はこの上なく素直です。」

ふん、と背けられた為に露出した耳が赤い。あぁ、素直じゃない子は可愛く無いだなんて誰が言ったのだ。
実際にはこんなにも可愛くて、こんなにも愛おしいではないか。

「ううん、君は酷く素直じゃないよ。だって、君は俺が大好きなのだから。」

そう囁けば、さらに首までもが赤く染まった。
それからやっとの思いで開けた口からも声が出ることはなくて。

しかし、パクパクと動かされたそこから意味を汲み取った臨也は再び苦笑するのだった。







好きなはずないでしょう

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100921



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