「正臣君。」
耳に絡みつくその声に思わず正臣は吐き気を催した。軽くえづいてからクルリと臨也に向き直る。
(珍しい、)
正臣に話しかけたところでこちらを向く回数など今までに何度あっただろうか。しかし思わず振り返ろうとしてやめた。その異常な記憶力が仇となり、正確な回数を知ってしまうことが出来るからである。わざわざ自分の精神状態を悪化させるのは馬鹿がやることだと思う。その考えにひとりでに納得していれば名前を呼んだまま何も言わない臨也に不信感を持ったのか、正臣がしぶしぶと口を開いた。
「・・・何ですか、」
「ううん、ただ可愛いなあって思って。」
珍しくこちらを向いている正臣の手をとり甘噛みしつつ愛の言葉を囁けば本気で嫌がった表情を表す。
「用も無いのに話しかけるな、虫唾が走る。」
「ふふふ、ひどいなあ・・・まあ、そういうところが好きなんだけどね。」
正臣の冷たい言葉にひるむことなく、それどころかさらに甘い言葉で攻めてきた臨也に正臣は今度こそ深いため息をつかざるを得なかった。
「・・・きもいんすけど」
「うん、知ってる。」
「自覚症状があるとは思いませんでした。」
「でも君は無いよね。」
「は?」
怪訝な表情を浮かべる彼に臨也はにっこり笑って答えとは言いがたい言葉を紡ぐ。
「ところで今日はえらく可愛いじゃないか。」
「何が。」
「いつもは俺が名前を呼んでも無視するか返事だけなのに今日の君は俺の方を向いた。」
「・・・気が向いただけです。」
ふい、とそっぽを向く彼。心なしか頬が紅いような気がしたのは気のせいだろうか。
「ふぅん、気が向いただけで君は大嫌いな人に声に反応するんだ?」
「たまたまです」
意地の悪い質問に次は俯いてしまった。
そんな彼の手を取ったままだったことに気がつき好都合だと過去の自分へと称賛を向ける。
そして、その手をグイッと自分の方へと引っ張ってやった。
「うわっ!」
下を向いていたがために抵抗するのが遅れた彼は見事に臨也の腕へと収まり、全体重をかけることになる。そして意外に軽い臨也がそれを抱き止められる筈もなく。結果的にはそのま臨也を押し倒す形になってしまう。
「あれー?正臣くんってば積極的ぃー!」「はぁっ!?違うに決まって」
「この体勢で違うって言われても何の説得力も無いけど?」
「――ー〜っ!」
バッと離れようと腕に力を入れるも、腰と手を押さえつけられていてはもがいているようにしか見えない。
「では、このまま頂きましょうか。」
そして普段使うことのないであろう言葉を発しにこりと笑った臨也の思うままに口付けを開始された。
リップ音から始まる戯れ事
(ツンとデレを使い分ける)(君の表情が見たかっただけ。)
括弧の中の通りです。
臨也限定でツンツンデレツンデレツンツン死ねな正臣が可愛すぎて爆発しそうです。
100805