おやゆびが行方不明
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これは困った、と静雄が頭をかいた。

「おーい、紀田?」

「・・・俺は平和島です」

「わり・・・くせで・・・正臣」

「何ですか兄さん。俺は怒っています。」

「やです。ほっといて下さい。」

さんかく座りをして壁を向いてしまっている正臣は2、3年前に平和島家に引き取られ、平和島と姓を変えたのだ。理由は現在の日本でよく見られる虐待である。正確に言うとネグリクト―――育児放棄と、性的虐待だ。
正臣がそれをされているという事実を前々から知っていた静雄は何度も養子縁組を申し出ていたのだが、正臣本人が頑として首を振らなかったため、本決まりになっていなかったのだ。しかしある日半裸で「助けて下さい」と駆け込んできたのを機に本格的に養子縁組に踏み切ったのである。

そんなこんなで戸籍上弟となった彼を静雄は実の弟である幽と同等、あるいはそれ以上に愛していた、のだが。

「何でチューなんてしたんですか・・・」

「その・・・つい・・・・」

その愛が何処で湾曲したのかその愛は何時しか恋愛へと変化し、無意識のうちにキスをしてしまっていたらしく。

「つい、じゃないですよ・・・俺がそういうの苦手だって」

「悪い・・・本当に・・・・悪い・・・」

分かっていた。性的虐待を受けていた彼がキスやその先の行為が嫌いだという事など分かっていた、のに。
自分の不甲斐なさに目頭がカッと熱くなるのを感じたが自分が泣く事ではないと気持ちを引き締めた。

そして未だに壁を向いている彼を優しく抱き上げてやる。さすがといえば不謹慎だが、虐待を長い期間受けていた身体は細く、軽い。それ故に簡単に自分の膝の上に乗った彼は何とも脆く、消えてしまいそうな程儚かった。

暫く背中をさすってやれば胸元へと熱い滴を感じる。

「ううっ・・・う、ひくっ・・・」

続いて漏れた嗚咽に彼が泣いてしまった事を理解した。

「正臣、ゴメンな、正臣・・・」

「ううっ、静雄さんはっ・・・俺の兄さんだと、思ってたのにっ・・・」

俺の衝動が他人の心を傷つけた、その気持ちが静雄をジャックする。そして再びこみ上げて来た涙を今度は押し込める事が出来なかった。

「どうせっ、どうせ俺のこと、父さんとかと一緒の目でっ見ててっ・・・!」

ポタリ、と静雄の胸元と正臣の首筋に落ちてしまった熱い飛沫をどうする事もなく二人で涙を流す。しかし、静雄は冷静な気持ちで先ほどの正臣の言葉を繰り返した。そしてどうしても否定しなければならない箇所を発見する。

「違うぞ、正臣。それは誤解だ。」

「ごかっじゃなっ・・・だって、父さん、キスした後はぜった、押し倒してっ・・・・!」

頑に泣き続ける正臣に静雄は声を張り上げ自分の思いを訴えた。

「ちげえってんだろ!俺はただお前が好きなんだよ!お前の親父さんはお前を貶めようとしてやってたことだろ。俺はなんつうかその、まあ愛だよ。キスしたくなったのだって愛故で、お前がどうしようもなく可愛くてつい・・・って俺は何言ってんだ・・・」

いつの間にか引っ込んだ涙。その変わりに羞恥心が溢れ、思わずポリポリと頬を掻く。そしてふと正臣の方を向けば、彼は驚き目を見開いていた。

「おれ、を好き・・・?兄さん、それ、ほんと・・・」

シャツをギュウッと握り、静雄を見上げる正臣の表情はまさに子供で、やっぱりまだ子供なのだと実感する。

「そうだ。俺は正臣が好きなんだよ!」

しかし、相手が子供だからといって恥ずかしさは変わる物ではなくて、静雄は顔を背けながらそう吐き出せば再び胸元に顔を埋められる。そしてさらに涙の落ちる感覚に戸惑った。

「お、おい。正臣・・・?」

おそるおそる声をかければごめんなさい、という言葉と共に涙を指で拭きながら顔を上げた彼の表情は何時もより明るい物で。

「俺、初めて人に好きだって言われて・・・だから、嬉しいんです・・・静雄さん、俺も、好きだっていったら困りますか?」

その言葉に静雄はもう一度正臣を抱きしめたのだった。










おやゆびが行方不明

(何もなかった俺の手に新しく生えてきた親指は無くなったけど)(変わりに小指が生えてきました。)





何が言いたいのかわからなくなった感ありありで・・・本当すいませんorz
とりあえず親愛→恋愛へと変わる瞬間を書きたかったのです。






100801



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