ぐい、と後ろからひかれる感覚。
「お前が黄巾賊の頭か?」
そして上から振ってきた声に先刻から感じていた殺気はこいつだったのかと正臣は理解した。
「ああ、そうだけど?」
返事をしながら全身の神経を集中させ、人の気配を数える。ひとり、ふたり、さんにん・・・六人位か。たった一人に対して六人とは粋な奴らだと思わず苦笑。
「俺達、埼玉のTO羅丸っていうんだけどよ、お前のお仲間が俺らのシマ荒らしてんだよなあ。」
苦笑には気が付かなかったらしい男達の中の一人が口を開いた。
「ソレのオトシマエ、ってとこか?」
「まあ、そんなもんだな。」
「ふうん?」
その声に正臣は初めて男達の方を向く。
「俺にそんな報告は入ってないんだけど?」
凛としたその声。まだ声変わりしていない声は高く、女性のソレに近い物を感じる。
「まあ良いや。せっかく来てくれたんだ。」
おもてなしする。そう言って正臣は歩みを進めた。
「おい、どこ行くんだよ!」
焦って肩を捕まえた男の喉は鳴る。それは肩の細さ、肌のきめ細かさに女を見た気がしたから。そして自分たちのリーダーを思い浮かべブルリと震えた。
「おい、離せ」
するとドスの効いた声で凄まれ男は思わず手を離す。
「わ、悪い・・・」
男の姿に他の五人は狼狽えた。六人の中ではリーダー格なのだろう。
(まあ、どうでも良いけど。)
正臣は再び足を動かす。今度は誰にも邪魔されなかった。
「おい、どこに・・・・」
「んー、人が居ない所?街中で喋るような内容じゃねえだろ?」
「ま、まあ・・・な」
それだけ言って押し黙ってしまった彼らを横目で見ながら路地裏に入っていく。
どれ程進むのだろうと思うほどに曲がりくねった道を何の迷いもなく歩いていく正臣に一抹の不安を抱えながらもついていく彼。
と、突然突風が吹いた。
何事だと正臣が振り返ればそこに先ほどの人影は見えない。
「なっ・・・!」
しかし、それはただ ’見えていなかった’ だけであった事を正臣は知る。
視界の端に入った靴を辿るように視線を下ろせば足下に転がる六人の身体。
そしてただ一人立っている記憶に無い青年。次は自分がやられるかもしれないと身構えるが拳が飛んできそうな気配無かったため少し警戒をとく。
「わりーな、俺の仲間が迷惑かけた。怪我、ねえか?」
「え・・・ああ、はい。」
その返答に安心したかのようにくすりと笑った彼はそのまま正臣の顎を捉えられるほど近づく。
「そりゃよかった。」
そのことにより身体に力が入った事に気が付いたらしい。
「大丈夫、俺は女の子に手をあげるような事はしない。手を出す事はあってもさ。」
なーんて。そんな言葉の後に続く沈黙。
「は?」
その沈黙を破ったのは目を丸くしたままの正臣であった。
「え、今、なんて?」
先ほどの言葉を問うその質問に男は困惑の色を浮かべる。
「え?手を出す事はあってもさ?」
「いや、その前です。」
「えーっと、女の子に手をあげるような事はしない?」
「それです!」
「え?それがどうした?」
「おれ、男ですよ?」
再び沈黙。
「え?」
次に沈黙を破ったのは誰でもないその男で。
「おま、男?」
「はい、男です。」
「どっきり・・・?」
「いいえ、俺は男です。なんなら見ますか?」
「えっ、いや、いい!いいけど・・・!」
顔の前で手をブンブン振った後、じっくりと正臣を見る。
「ふうん・・・これでねえ・・・」
ふうん、へえぇ、などと感嘆をもらす彼。顎を捉えられている為に逃げる事も出来ない。
そして正臣は絡み付くような視線にしびれを切らしたらしい。
「あ、あの・・・?」
おそるおそる、というように視線をあげれば何とも綺麗な瞳とぶつかった。
ニカッと笑った彼は正臣に話す隙を与えずに口を開く。
「俺、六条千景。」
「へ?」
「だから、俺は六条千景っていうんだ。よろしくな?・・・えっと、名前は?。」
「紀田正臣、です」
「よろしくな、正臣!」
そしてその顔が近づいてきたと思えば唇へと何かが触れた。
「っーーー!?何して!」
それが何かなんて分からないはずも無く。
「俺、また池袋来るからよ。そんときは案内頼むぜ?」
「は、いや、だから・・・」
「じゃあな」
正臣が話し終わる前に勝手に別れを告げブオンっという音と共に去った彼。
「意味わかんね・・・」
呟くも、その声は誰に聞かれる事も無い。
静かに唇を撫でたのも、きっと誰も知らないのだろう。
もちろん,正臣を含めて。
よろしくの意を込めて
(・・・何で俺たち殴り倒された・・・?)(・・・さあ)
下っ端が空気過ぎて可哀想すぎるw
というより本格的にスランプ・・・どうにかしないと・・・
100725