True Or False ?
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※やおい

パチパチと部屋に響くキーボードを叩く音。二人分のその音は何とも不思議な和音を奏でている。
顔を見たくないというように臨也と同じ方向を向いて座っている正臣の背中を眺めながら臨也は口を開く。

「正臣くん、好きだよ。」

発されたのは愛の告白。にも関わらず正臣は一切振り向こうとはせず、更には視線をパソコンから逸らす事無い。それはきっと臨也の言い方に問題があるのだろう。そして正臣はさらりと返答する。

「それはありがとうございます。」

そんな正臣の返答に気を良くしたらしく口元を緩めた。

「ふうん、俺からの告白でも嬉しいんだ?」

「ええ。好意を持たれて嫌がる人間なんて居ないでしょう?」

「まあ確かにそれは否定できないね。」

そしてカタ、と今まで座っていた椅子から立ち上がり、ゆっくりとソファーへ近づいていく。

「まあ、俺は臨也さんの事、大っ嫌いですけど」

やはり画面へと目を向けながら喋る正臣。視線の先には例のチャットサイト。バキュラと名乗る彼は今、田中太郎さんとの会話に夢中らしい。その画面を後ろから覗き込んで臨也は笑う。

「そんなに彼が好きだったら会えば?」

「それが出来たら苦労しませんよ。」

即答してくる彼。あ、目が合った。振り向いた彼の目には現在臨也しか映っていない。その事に酷く興奮を覚える自分はどうしようもない変態なのかもしれないと臨也は思った。

「ふぅん。まぁ、君は悩み多き高校生だったからねぇ。仕方ないんじゃない?」

「そうですね。」

「まぁそういうところも君の魅力だと思うけどね。」

「そうですか。」

いつの間にか再びパソコンへと視線を移していた正臣と臨也によって淡々と進められる会話。その中に感情、などというものは存在しない。
否、存在しなかったはずなのに。
臨也は心の中で疑問符を浮かべた。その理由は衝動にある。

(何故俺は、この子に抱きつきたくなった?)

目の前にある華奢で白い身体。自分の身体だって白いし細いのだが、目の前のものはそれどころの話ではなかった。
パーカーの袖から伸びる手首は雪のように白く、片手で掴んでも指が余るくらい細い。
ごくり、と唾を飲む。
この白い肌には赤がよく映えるだろうか。いや、映えない筈がない。
しかしその確証は無いのである。それがもどかしくて仕方がなかった。

おもむろに彼の手を取る。
パソコンを妨害された彼は顔をしかめて再び臨也を見つめた。

「何ですか。」

その視線が堪らないというようににっこりと微笑んだ臨也は、その手にすがり付くようにしゃがむ。

何がなんだか分からない、といった表情をしたままの正臣を上目に確認しつつそのまま白に吸い寄せられていった。

ちぅっと毒を吸い出すかのように食らいつかれたそこが変な熱を持つのを正臣は感じる。

「んんっ」

否応なしに漏れてしまった声にバッと染まる彼の頬。手首を捻っても離れない彼の唇に溜め息を吐いた。



♂♀




いったいどれ程の時間が経ったのだろうか。臨也はまだ正臣に吸い付いたまま離れない。しかしそろそろ我慢も限界という物だ。動けない、というのはなかなかに辛い。

「も、離れろっ!」

グイッと頭を押せばいとも簡単に離れていった。あぁ、こうすれば良かったのかとぼんやりした頭で考えながら、手を元あった場所に戻そうと命令を出すも言うことを聞いてくれない。

理由は実に簡潔にして単純。ただ単に臨也が離さなかっただけである。
何とも形容し難い表情―――恍惚とでも言えば良いのだろうか―――を浮かべた臨也に対して口を開く。


「・・・離してくれませんか?」

「何で?もう離したじゃないか。」

「そうじゃなくて、俺の手を離せと言ってるんです。」

「じゃあ嫌。」

「じゃあって・・・」

思わず溜め息を吐く正臣を露程にも気にせず、

「やっぱり白に赤は映えるな、凄く綺麗だ。」

とまるで独り言のように呟かれたその言葉。

「臨也さん?」

「正臣くんには赤も似合うのか。そうか、黄色だけかと思ってたけど。」

それからも続けられる正臣を無視したかのような言葉の数々。普段なら気にしないように電脳世界へと旅立ちつのだが手を掴まれている今の状況でそれは難しい。

「あーでも青も似合うかな。ブルーローズとか」

「臨也さん離して下さい。」

「まあ薔薇よりもバンダナ系の方が似合うだろうけど。」

「いざ・・・」

(あれ、なんか泣きそう・・・)

おかしいと思うと同時に当然だと思う気持ちもあった。彼が自分の事について考え込んでいるらしいことは分かっているのだが、それでも先ほどから完全に無視されている状態なのだ。どこか寂しいのは否めない。
カアっと熱くなってきた目頭を押さえる事も出来ず、ただ何かがこみ上げてくるのを感じるしかない。じわり、と溢れてくる何か。そして水滴はいつしか重力を受け、零れる。それは正臣の瞳に溜まっていた物も例外では無く、ただ無抵抗に流れ落ちる事しか出来ないのである。

ポタリ、と涙が臨也の手の甲へと伝ってやっと彼の目は覚めたらしい。

「何で泣いてるの?正臣くん。」

手首を握っていない方の手で優しくその涙が拭われる。

「うっさい、はなせよもうっ・・・!」

「ねえ何で?」

振り解こうと腕に力を込めたが今度は離れなかった。それどころかそのまま抱き寄せられてしまいそうなほどの力で引き寄せられた。

「あんたがっ、」

「俺が?」

ガタリ、とソファーが音を立てる。遂に引き上げられた身体は臨也の腕の中に閉じ込められた。久しぶりに感じる人の暖かみに正臣の涙腺は更に緩む。

「俺が、何?」

「無視するからっ、」

そう言ってから正臣は違和感に襲われた。自分は何故無視された程度でこれほどの喪失感を覚えたのだろうか。何故、寂しい、だなんて。

(まさか、)

(いやだって、)

(俺は、)

「ふうん、俺に無視されて寂しかったんだ?」

「ち、ちがっ!あんた限定じゃない!」

「まあ良いけど。」

うるさい口がようやく閉じたかと思えば額に温度を感じた。
続いてちゅ、とリップ音が響く。正臣はその音をどこか遠くで聞いているような錯覚に陥っていた。

「好きだよ、正臣くん。」

先刻呟かれたソレとは明らかに違うように聞こえたのは果たして真実だったのだろうか、とぼんやり考える。

「俺も、です。」

いつの間にか口をついて現れた言葉に臨也の笑みは色を濃くした。













True Or False ?

(さて、彼の言葉は真実でしょうか)(それとも偽物でしょうか)






伝えたい事はこれこそがヤオイだってことです。
山も落ちも意味もないよ!






100724




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