※数年後設定。
※さらに八巻の微ネタバレ
愛して
と、誰かが呟いた気がした。
帝人は一人、真っ青な空の下を歩く。
そんな彼は何処から見ても大人しそうな好青年であり、やんちゃ、という言葉など、彼の何処を探しても見つからなさそうである。
しかし、大抵そのような外形からの推測は外れることになるのだ。
それは彼も例外ではなく、現に手首に巻かれた青がそれを物語っている。
その青には美しい刺繍。鮫と見受けられるそれは彼の手首でキラリと光った。
これだけでまずわかることは、彼が今池袋を司る三大勢力の一つ、ブルースクエアのメンバーだということである。
さらに、彼の異常はそれだけではなかった。
右手にしっかりと握られたケータイ。一般人ならばその1000もあるアドレス帳のメモリーがいっぱいになることなどないだろう。
しかし、彼のケータイはもう既にパンパンになっていた。実際今握っているものは2台目である。
と、そのケータイに受信。
手慣れた動きで操作し、そのケータイをポケットへと滑り込ませると静かに口許を緩ませた。
「これでダラーズ側は準備完了、と。次はブルースクエア側ね。」
続いて鞄から違うケータイを取り出し何処かへと電話をかける。
――はい、どうされました?先輩。
「こちら側は準備できたんだけど、もう良いかな。」
何の主語も無いその言葉は一見なんの意味も持たないもの。しかし電話越しの彼には意思が伝わったらしい。
――わかりました。ターゲットは今、新宿に。
「ありがとう。」
パチン、とケータイが閉じられたとき、帝人の表情は恍惚、というに等しい物へと変化していた。
「僕はようやく君の居場所を作る事が出来たみたいだよ、正臣。」
ポケットに手を忍ばせれば指先にコツンと当たった箱に更に頬は緩む。
「君は僕の隣でずっと笑っていれば良いんだ。」
すうっ、と息を吸い込んで足を新宿へと向けた。
これから会う愛しの幼馴染みの事で頭がいっぱいである。もう何年も直接は会っていないはずだ。こんなにも時間をかけてしまった事に対し帝人は謝りたいと一人思う。
しかし長い歳月を経てもなお彼に対する愛は変わらず、それどころか更に深くなっていく事に感動を覚えていた。
彼との思い出のすべてが美しく、その他が色あせてしまって仕方が無い。帝人の頭の中を駆け巡るのは彼の笑顔と声だけであった。現在など要らない、過去さえあれば僕は生きていけるんだ、と考えるのは今日までで終わり。
これからは正臣と僕、たった二人の世界を創世するのだ。そう、僕らは未来に生きなくてはいけないんだよ、正臣。
そう心の中で語りかけた帝人はもう普段の彼ではなく、ただ一人の狂人でしかなかったのだ。
無くした時間を埋めに行こう。
(久しぶり正臣、迎えにきたよ。さあ僕たちだけの世界へ行こう。)(お前本当に帝人なのかっ!?目を覚ませ!その手に持った物なんだよ!)(ああ、これ?これはただの婚約指輪だけど?)(婚約っ・・・馬鹿かっ!それ、白骨だぞ!?)
帝人様が自分を見失ってます。
あの子はきっと最後にはここまで行ってしまいそうだと思ったんです。
意味が分からないのは私もですよ!おそろいですねっ^///^
100723