浄化を拒む青
―――――――




「綺麗なものは壊したくなりませんか。」

唐突に問いかけられたそれに帝人は顔をしかめた。

「あれ?なりませんか。帝人先輩なら同意してくれると思ったんですけどね。」

ケラケラと笑いながら立ち上がった青葉はいまだ座ったままの帝人の周囲をくるりと回る。

「僕は思わないなぁ。綺麗なものは壊したくない。そのままであって欲しい。」

先ほどのしかめっ面は何処にやら、純真無垢と形容するのがふさわしいような、実に汚れのない微笑みを携えた帝人。手に持ったボールペンを鮮やかに回しながら、ふと顔を上げた。

「青葉くんはなんでそう思うの?」

小首を傾げながら、ねぇなんで。と、問う。青葉はそれに少しの違和感を感じたが、自分に気のせいだと言い聞かし、だって、と続けた。

「俺は青の美しさが欲しいですから。」

「青の美しさ?」

怪訝な顔をして、それは何。と顔で訴えれば察知したらしい青葉が受ける。

「一言で言えば悲しみですね。ほら、よく言うじゃないですか。落ち込んでいるときや、悲しい気持ちになったときにブルーだって。俺はそのブルーが欲しいんです。だから美しい物を見ると壊してめちゃくちゃにしてしまいたくなる。」

自分の手を見ながら喋る彼。視線の先には先日開けられた誓いの穴。それを隠すようにグッと握り、再度帝人の方を向く。

「だから俺は壊すんです。そう、例外なく美しいもの全てを。例え人間であろうとも。」

「へぇ、流石青葉くん。悪趣味だね。」

「貴方が言えたことではないと思いますよ。」

「そうかな。僕はまともだよ?」

「それは流石に認められませんね」

「ひどいなぁ。」

クスクスと笑う帝人に青葉は感情のこもっていない視線を向けた。その目には帝人は映っておらず、ただ黄色。

「だから壊したんです。あの綺麗な人を。めちゃくちゃにしてボロボロにして、いつもの黄色が青に変わる瞬間が見たくて。」

太陽のように輝くその笑顔が眩しくて、俺の求めるような青じゃなくて。だから気に入らなくて。

「ほんと、壊したくなりますよね、紀田正臣さんは。」

まぁ、誰だか知らないとは思いますけど。そう言って紀田正臣の歪んだ顔を思い出したのだろう。にやり、と笑いあの綺麗な表情は忘れられないと言って瞳に映る黄色が歪む。
そしてその次の瞬間に青葉は壁に叩きつけられた。背中の衝撃に驚き目を見開けば目の前には先程の青葉を上回る無表情さ・・・いや、冷たさ、といった方が正しいだろうか。そんな表情をした帝人が立っていた。
先程まで手元にあったボールペンは姿を消している。

「青葉くん。」

しかし声色は何時もと同じ、いや、普段通りすぎた。一見怒っているかいないのかわからないが、先刻の行動から怒っていることが確定している。

「君の悪趣味な行動は好きにすれば良い。ダイヤモンドを壊しても良いし、なんなら国を滅ぼすのも構わない。」

ぎり、と帝人の手に力が入ったのに気が付き、肩口に何かが流れる感覚に犯される。熱く冷たいその感覚に酔っている自分に気付き、つくづく自分は両極端だと苦笑した。

「だけど、」

そんな青葉を他所に帝人は言葉を続ける。

「それに正臣を巻き込んだら、僕は絶対に君を許さない。」

その時青葉は知る事となった。
先ほどまで帝人が持っていたボールペンの行方を。

「いっああああああ!!」

ぐさ、と肩に刺さったソレ。
前回と違うのはいつまでたっても抜かれないという事である。

「僕の恋人に手を出した時は、それ相応の処置を取らせてもらうから。」

そう言い捨てて彼は足早にその場を去ってしまった。

一人残された青葉は刺されたボールペンを抜こうともせずにズルズルと壁に沿って沈み込んだ青葉。

「     」

そして小さく何かを呟いたが、それは空気に飲み込まれ消えていった。




浄化を拒む青

(別に破壊したい訳じゃない。)(ただ俺が好きになった人たちが綺麗すぎただけなんだ、)






なんだろう、最近帝正の次に青正が好きかもしれない。
片方が病んでたり片方の愛が重いのが好きだったりするんです、許して下さい。

余談ですが帝青も好きです。正臣受けの次ぐらいに好きです。
結論:来良が好き。





100722



―――――――



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -