「悪い、会えない。」
ようやく来たメールだと言うのに、と正臣は肩を落とした。
パタン、とケータイを閉じてはぁ、と小さく溜め息を付けば、隣に居た帝人が顔をあげる。
「どうしたの?」
「静雄さん、今日会えないって・・・」
今にも泣き出しそうな正臣の頭をぼんぽんし、帝人は柔らかく微笑む。
「そっか・・・仕事?」
「うーん・・・わかんね・・・」
「まぁ静雄さんも社会人だから色々と忙しいんじゃない?」
「かなぁ・・・そうだよな・・・」
「うん。だからさ、そんな浮かない顔しないでよ。せっかく園原さんとかがお祝いしてくれてるんだから。心配かけたくないでしょ?」
「うん。・・・よし、サンキューな、帝人!」
そう言って普段の笑顔を“作った”正臣。そのまま杏里達の方へと駆けていく。
その後ろ姿を見守る帝人の顔には、我が子を見守る優しい聖母のような表情が浮かんでいた。
誕生日会が終わった頃には、もう既に11時を越えていた。今日誕生日会を開いてくれた皆に礼を言い、帝人に杏里を送ることを約束させ、帰路につく。
家に帰ればまた一人だと思うと、何だかそのまま真っ直ぐ家に帰る気にはどうしてもなれなくて、街をうろついてみることにした。繁華街などの明るい道を歩いていても、路地裏のような暗い道を歩いていても、無意識に探してしまうバーテン服。
しかし、池袋で彼が居る可能性があるであろう道をくまなく歩いても彼を見つけることはできなくて。
「帰ろ・・・」
小さく呟いてふと携帯を見ればあと20分で自分の誕生日が終わる時間だった。
早足で家に向かう。歩いていたところが意外と自分の家に近かったらしく三分ぐらいで直ぐについた。
がたり、と家のドアを乱暴に閉め、続いて自分の部屋のドアを開ける。そしてボフッという効果音と共にベッドに埋もれてみても、やっぱり消えない喪失感。
「あと、少し、か・・・」
今、特別な日は何事もなく終わろうとしているということを、正臣は寂しく思った。
たくさんの人達に祝ってもらえたし、たくさんのプレゼントももらって、凄く充実していたのにも関わらず、何事もなかった、と感じてしまうのはポッカリと空いた心の穴のせい。
「会いたいな・・・静雄さん・・・」
ぼそっと呟いても叶うはずが無いのに、と悲しみが込み上げてくる。
じんわりと熱くなってきた瞼に指を沿わせてみれば、小さく痙攣していることに気付いた。
一瞬瞼から力を抜けば、ホロリと伝う一筋の涙。
「やばっ、」
慌てて枕に顔を埋めて涙を止めようとするも、無情な涙は枕に染み込んでいくばっかりである。
と、その時に右側から小さくバイブ振動を感じた。
音楽も流れていない静かな部屋にその音は小さくとも大きく響く。
暫くしても鳴り止まないそれに電話だと知り、枕に顔を押し付けたまま通話ボタンを押した。
「はい、紀田です」
思いの外くぐもっている自分の声に驚きながらも声を発せば、続いて耳に流れ込んできた声に目を見開いた。
『あー、紀田か?俺だ、平和島だ。』
思わず枕を抱えたまま起き上がり目をぱちくりさせる正臣。
「静雄さん・・・?本当にですか・・・っ?」
『お前に嘘ついてどうすんだっての。』
「っ・・・!」
そして涙が再び溢れ落ちた。
『おいおい、泣くなよ・・・』
「だって・・・!」
静雄の優しい声色に更に涙は勢いを増す。
「今日っ、1日会えな、くてっ・・・寂しく、て・・・なのにっ、こんなっ、」
『悪かったな・・・色々あってよ・・・』
「でもっ、うれ、し・・・っ、・・・!」
正臣の嗚咽が部屋に、回線に響き、二人の間には沈黙が流れる。
「会い・・・た、い・・・!」
そんな時、無意識に紡がれた正臣の声。一度こぼれたら最後。気持ちが制御できなくなってしまう。
「会いたい、です、静雄さんっ!会いた・・・っ、」
と、受話器から小さな笑い声が漏れてくる。
『外、出てこい。』
「っえ?」
『良いから。』
トタトタと言われるままに玄関へ向かい、ぎ、と扉を開け、そして。
「『誕生日おめでとう。』」
「っ、静雄さんっ・・・!!」
抱きしめられた。思いっきり、思いっきり。
「会いたかった。」
「俺もですっ・・・静雄さっ・・・!」
「泣くなって。」
親指で優しく涙を拭われ、顔を上げればそこには会いたくて会いたくて仕方がなかった彼の顔。そのままかがんだ彼は耳元で囁く。
「愛してる。」
「っ、」
ポトリ、と正臣のケータイが落ちた。
「おい、ケータイ」
それに気が付いた静雄がかがんだ瞬間、耳元に正臣の唇が触れる。
「俺も大好きです、静雄さん。」
その時0時の鐘が鳴り響いた。
十五分前のラブコール
(誕生日終了十五分前に貰ったのは)(愛する貴方からの一番のプレゼント)
あわわわわわ、素敵リクだったのにも関わらず活かしきれなくてすいません・・・!
『誕生日祝いに参加できない静とみんなに祝われて嬉しいが何か物足りない寂しい正。日付が変わる15分前に電話でお互い会いたいと伝えあう。改めてお互いの大切さを確認するような暖かいお話。』
ということでしたが、暖かいお話しになっていたでしょう・・・か?
この話でほっこりしていただけたら嬉しいと思います。
では、purple様、正誕リクエストありがとうございました!
100703