その時、池袋の街がざわめいた。
そのざわめきの中心にいる一人の少年は困惑した顔である。
「やめてください、何ですか急に・・・!」
そして彼の前には、いつもなら顔を合わせた瞬間に喧嘩を始める筈の二人の姿。
「ねぇ正臣くん。俺からのプレゼントか、シズちゃんからのプレゼント、どっちが嬉しい?」
「俺をシズちゃんと呼ぶんじゃねぇよノミ蟲が。」
「煩いなぁ、俺が君を静雄と呼んだところで気持ち悪がるのは一緒だろ?」
「黙れ。」
正確に言えば口喧嘩は現在進行形で行われているのだが、この場合は殴り合いの喧嘩にならないという意味の喧嘩である。
とにかく二人が半径5メートル以内に居るにも関わらず、その場が大惨事にならないこと、さらには一緒に歩いて少年に近づいたことに対して人々は歩みを止めてざわめいたのである。
そんな二人の手には綺麗にラッピングされた可愛らしいプレゼント。袋や包装紙が同じであることから、同じ店で買ったことは容易に想像できた。
「あの、何で二人でいらしたんですか?」
「お前の誕生日プレゼント買った時になんか隣に居たんだよ。で、俺が渡しに行こうとしたらコイツが着いてきて、」
「だって、俺だって正臣くんの誕生日プレゼント買ってたんだもん。」
正臣の素朴な問いかけに二人が答える。
「だもんって言うな。気持ちわりぃ・・・。」
「まぁまぁ。あの、プレゼントありがとうございます。」
喧嘩を始めそうな雰囲気を醸し出した二人を慌てて止め、そしてプレゼントを受け取った。
「そうそう。どっちのプレゼントが正臣くんに喜んで貰えるかシズちゃんと勝負してるから、選んでね?」
「はぁ?何やってんですか・・・」
呆れた、とでも言いたげに溜め息を吐いた正臣はゆっくりと二人のプレゼントを広げる。
「あれ?」
そして、出てきた物に思わず目を見張った。続いて込み上げてくる笑いに息をつまらせる。
そんな彼の様子に疑問を持った二人がそれぞれ正臣の手のひらを覗き込み、そのまま固まった。
やがて堪えきれなかったらしい正臣の笑い声がその場に響く。
「本当、お二人は仲悪いのか悪くないのかわからないですよねっ・・・・ふふふ」
そう言う正臣の手元には全く同じ形のピアスが二つ。
銀色に光るそれらは、やはり同じ輝きを放っていてそれだけで笑みが溢れる。
「・・・シズちゃん、いくら自分のセンスにに自信が無いからって真似は良くないよ・・・」
「それは俺の台詞だ。」
覗き込んだ体勢のまま呟く二人。
「じゃあ、勝負は引き分けって事で良いですか?」
にっこり微笑む正臣に二人が食いつく。
「「シズちゃん/臨也と一緒は嫌だ。」」
「そう言われても・・・」
考え込む正臣。そして閃いた、という風に手をポン、と叩くとじゃあ、と続けた。
「来年まで勝負はお預け!って事でどうでしょう?」
「「はぁ?」」
呆れた顔をする二人に正臣は艶美な微笑みを向ける。
「だから、来年までいっぱいいっぱい俺の誕生日プレゼントの事を考えていて下さい?」
そこで勝ち負けを決めますから、と言ってその場を立ち去った正臣。
残るのは二人と取り巻き。
「今のはずっと俺の事を考えとけって意味だよね」
「・・・多分な。」
「そっか・・・やっぱり?」
「・・・おう」
「だよね・・・帰る」
「俺も。」
そのまま反対方向に動き出す二人にやはり人々はざわめいた。
夢のような風景
(正臣正臣!静雄さんと臨也さんが喧嘩しなかったって噂になってるよ!)(あぁ、知ってる。俺そこに居たし。)(えええ!?)
正臣がただのがめつい子になったのは気のせいだと信じたい。
では、リクエスト協力ありがとうございました!
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