計画は打ち砕ける
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「俺、今好きな人居るんだっ!」

そう正臣から告げられたのは2週間位前。
その人は一般人で、どこかの会社員らしい。
いつ知り合ったの?と問えば道端で転んだ時に助けてくれた、と正臣。
なんともまぁ、ベタな展開なのだろうか。
そしてその恋の罠に定石通りすっぽりとはまってしまった彼は、頬を赤くして必死に男の魅力を説く。

「そっか。実ると良いね、その恋。」

その恋の罠が悪の罠で無いことを祈りつつ帝人は正臣の頭を撫でた。

「うん!」

元気に返事する正臣のこの笑顔がずっと変わらぬように祈りながら。







告白をした、と聞いたのはそれから三日後。

「なんかさ、凄い快くオッケーしてくれたんだぜ?」

椅子に腰掛け足をブラブラさせて喜ぶ正臣。

「なんだって?」

「初めて会ったときに好きになったって!それで、その・・・可愛い子が転んでるなぁって思って助けてくれたって言ってた。」

始終花を飛ばしながら頬を緩めている正臣は本当に幸せそうで。
これから始まる春色の日々に心を踊らせているようだった。





それから毎日会ってると聞いた。幸せそうな彼を見るのは好きだったし、自分も幸せそうなだったから、彼ののろけ話は聞いてて苦にならなかった。



しかし、一週間くらい前の事だったように思う。
身体のあちこちに痣を作った彼がよろけながら登校してきたのだ。

「どうしたのっ!」

慌てて駆け寄り身体を支えると、困ったように笑う正臣の顔が目に入った。こんな表情は、初めてだ、と思い心配になるが、正臣から返ってきたのは気持ちを押し込めた言葉。

「ううん、なんでもない。」

そう言われてしまえば、帝人が手出しできないと知っての言葉であった。
いくら幼馴染みで、親友であっても、恋人との関係に口出しは出来ない。
二人の問題に口出しするのは良くないことなのだ。だから帝人は今すぐに聞きたい気持ちを押さえて一言告げる。

「いつでも相談に乗るからね。」

その言葉にやっぱり困った笑顔で頷くのだった。





それから数日後、即ち本日。
僅か一週間で痩せ細ってしまった正臣は、遂に重々しく口を開く。


「なんかさ、彼、けっこう変な性癖があるみたいで・・・俺が痛がってるのを見るのが好きだって・・・・」

今にも泣きそうな声ですがり付く正臣はなんと痛々しいのだろうか。

「好きなのにっ・・・好きって言われて嬉しいのにっ・・・・どうしようっ・・・痛いよ・・・痛いよ帝人ぉっ・・・!」

自分の身体を抱きながらその場に座り込んで涙を流す正臣。
震える肩が薄い。以前から細かった身体は更に細くなり、所々に見える痕が悲しい。
そんな正臣に居ても立ってもいられなくなり、思わず覆い被さるように抱き締めた。

「みか、ど・・・?」

頬に幾筋もの悲しみを描きながら、しかし純粋な表情を浮かべる正臣に帝人は禁断の言葉を放つ。

「別れなよ正臣っ・・・もう、頑張ったから・・・こんな痛々しい正臣見てられないよ!」

その言葉に驚いたらしい正臣がバッと顔を上げたが、帝人の泣きそうな顔を見て、考え込む。そして再び顔を上げたときにはやっぱりあの時の笑顔。

「うん・・・そうだな・・・」

涙を流しながら困ったように笑う正臣にやっぱり泣きそうになりながら、

「もし正臣さえ良ければ、僕も一緒に行かせてくれないかな。」

と聞けば、コクンと頷かれた。

「もし、じゃなくてさ。俺からも頼むよ。一緒に来て欲しい。」

意志が揺らいだら良くないから。そう言ってどこか安心した笑顔を浮かべて、それじゃあ行こうか、と手を引かれる。

「ちょっと早いけど、多分大丈夫。」

片手でケータイを操作し、集合場所の記されたメールを確認して歩き出した。

その背中に迷いはもう見られない。





♂♀

行き着いたのは駅の西側。即ち西口公園である。

様々なカップルが愛を語り合うこの公園は所謂リア充に溢れていた。そんななか、正臣は真っ直ぐ歩く。空いているベンチを見つけたが、そこに寄ることもない。

「帝人、あの人。」

正臣の指差す先には誠実そうな青年。スーツを綺麗に着て、優しそうな顔をしている。
そんな彼は右手にケータイ。どうやら誰かと電話をしているらしい。
背後から近づいていくが、二人には気づいていないようで、笑顔で会話を続ける男。
「あ、はい。今日はそのメニューで、はい。了解しました、折原さん。」

パタン、とケータイを閉じた男はそのまま帝人の視界から消えた。「えっ・・・」

頬を押さえて驚いている男の前には正臣が立っており、右手にはしっかりと拳を握っている。

「折原って・・・今・・・どういうことですか」

正臣の瞳には再び涙が滲む。
そして正臣に殴り飛ばされた男は、フラりと立ち上がると正臣の肩をガシッと掴んだ。

「折原さんは仕事の取引先だっての。てかよ、殴ったな、今。殴ったらお仕置きっつったよなぁ?」

途端表情が、凶悪な・・・まるで折原臨也のような微笑みへ変わり、正臣の身体がはっきりと震える。しかし、その中で深呼吸したあと意思の強い瞳が男を捉えた。そしてはっきりと、相手に、そして自分へと言い聞かせるように口を開く。

「別れましょう。もう、つらい、です・・・」

たった一言、されど一言。正臣にとっては重たく心にのしかかるその言葉。それをはっきりと言ってから正臣は帝人の方へと駆け寄ってきた。そのままひし、と抱きついた彼の動きを凝視していた男はやはり厭な笑みを浮かべて二人へと近寄ってくる。

「ふうん、次はその男かい?見たところによると同学年かな?彼の前でいやらしく腰振っちゃうわけか、正臣は。でもさあ、俺が調教したからそうとうマゾになってるんじゃないの?それこそ女性なんて抱けない身体になってんだろうし。どうすんの?そこの彼に虐めてもらうの?」

「ち、違っ・・・」

服を掴む手に力が込められ、さらに小刻みに震えている正臣を後ろにして、帝人は男に向かって歩き出した。

「みか、ど・・・?」

その時正臣は感じる。
幼馴染みが今、多大なる怒りを抱えているということを。

「ねぇ正臣。今から少しの間目を瞑ってて欲しいんだ。」

抑えきれていない怒りに少し動揺しながら頷けば、帝人は優しく微笑んで、クルリと男の方を向く。


そしてゆっくりと口を動かした。

「失礼な事をお聞きしますが、貴方は名誉損害という言葉をご存知ですか?」

「何だい急に。だいたい正臣の何だか知らないけどさ、人の恋愛とかに口挟まないでくれるかい?」

「ご存知ですか。では、正臣は今名誉を損害されました。さて、僕はその事に対し、貴方に報復しなくてはなりません。」

「何を、たかだか高校生に、」

その時、帝人の手のなかでカチリという音。続いて何かが太陽を受けて輝いた。「僕の怒りを受け入れろ」

全くの無表情で放たれたその言葉と、掌に何かが伝わる感覚。
男は一瞬何が起きたのか、理解できなかった。
いや、理解したくなかっただけなのかもしれない。
そして次の瞬間、彼の痛みを司る脳の部分が悲鳴を上げた。

「うわぁぁぁあああ!」

ドクドクと滴る血の出所には何のヘンテツもないボールペン。

グッサリと貫通したそれは男を動揺させるには充分なもので。

「こんな予定じゃなかったのにっ!畜生!」

手にボールペンを刺したまま走り出した男を帝人が追い掛けることはなかった。

「帝人・・・もういい?」

「ん、良いよ」

後ろを向いて目を瞑っていた正臣の不安そうな声に放置していたことを思い出して返事をすれば、恐る恐る振り返る正臣。そこには普段の笑みを浮かべたままの帝人しかいなかった。

「あれ?あの人は・・・?」

「あぁ、怒って帰っちゃった。」

「そっか・・・」

少し寂しそうな声を出す正臣をそっと抱き締め、耳に吹き込む新しい世界。

「寂しがらないで。これからは彼が正臣を愛した以上に僕が正臣を愛してあげる。」

「え・・・帝人・・・?」

慌てふためく正臣に再び言葉を届かせる。

「僕は正臣が好き。それはもうずっと前からね。愛してる。・・・正臣は?」

さらりと髪を撫でてやれば顔がみるみる赤く染まった。

「っ・・・分かんない・・・けど、多分、好き・・・」

つまりながら喋る正臣に愛しさが増す。
暫く見つめ会った後、どちらともなく瞳を閉じ、そして、初めての口付けを交わしたのだった。













計画は打ち砕ける

(正臣の回りにあんな男が居るなんて情報に無いですよ折原さん!)(あぁ、あれは俺も予想外だったよ。・・・これだから人間はおもしろい。)




「臨也が仕組んでモブ×正臣。裏が入るかどうかは、お任せ。それからモブに正臣が何かいろいろされた後、覚醒しなさった帝人様が正臣を助ける」ということで・・・
モブ正モブ正はぁはぁと思いながら書かせていただきました!
帝人様とかね、あの名言を言わざるを得ない状況に導いてくださいまして・・・!←
とにかく長くなってしまいました。グダグダ感はいつもの事だと生暖かい目で見守って下さい。

ではみくの様!正誕リクエストご協力ありがとうございました!






100717



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