Je vous aimais réellement....
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「君だってさあ、幽くんとの関係をバラされたくないよねえ?だってさ、もしバレたら幽くんは一気にホモ男優だよ?きっと女性からの支持がガクッと落ちるんじゃないかなあ?ということはそれに比例してうなぎ上りだった彼の人気はこのまま急降下っと。まあそれで君が良いんだったら拒否する事は可能だよ?」

目の前にある唇がくいっ、と歪む。

「まあ君には無理だろうねぇ。だって君は優しい。そして彼を本気で愛しているからね。賢い君なら分かるだろう?俺の玩具になるか彼の人気が無くなるか、どちらを選んだ方が良いかなんて。」



ヤメテヤメテと心の声が叫ぶ。
コワレテシマイナサイと頭の中に誰かの声が響く。
彼と自分どちらが大切かなんて決められないに決まっている。彼を愛したい。愛する為には自分の心が生きてなければ意味がない。

デハ、ツラクテモイイノ?とまた別の声。
イヤダイヤダ、ツライノハモウイヤダ!と。

そんなとき後ろから囁かれた言葉。


その言葉が、声が耳にこびり付いて




 ハ
       ナ 

   ナ


       イ













♂♀

「正臣、どうしたのこんな時間に。」

がちゃ、と高級マンションの最上階のドアが開かれる。
時刻は午前2時。丑三つ時と言われるあの時間。
久しぶりに見た正臣は全体的に小さく、白くなっていた。しかし目の下には大きな隈。そして手首にはロープの跡。表情は暗く、普段の彼とはかけ離れすぎている。
そこまで観察した幽は無言で正臣を引き入れた。

「おいで。」

両手を広げて来いと言う。有無を言わせぬ幽の声におずおずと足を進めそのまま抱きついた。

背中に手を回せばそのまま折れてしまいそう。最初に幽が抱き締めた時に感じたのはそれだった。しかし、今は違う。

(抱き締めておかないと、消えてしまいそうだ。)

ぐ、と力を込めればビクリと目に見えるほど震える目の前の肩に何かがあったのだと直感した。

「何かあった?」

声をかければ正臣の顔はおそるおそるというように上げられる。目にはうっすらと涙が浮いていて何かに必死に堪えている感じがしたが、意思の強いその瞳に迷いはなかった。

「別れましょう」

表面張力が負けてポロリ、と溢れる涙。

「別れて、下さい」

「正臣。」

幽は動揺した。しかしそれは心だけ。頭は何故だかいつもよりも冷静だった。

「うっ・・・ひくっ・・・」

微かに聞こえる嗚咽としっとりと濡れる胸元。震える肩を強く強く抱きしめる。

「正臣は本当に別れたいの?」

その言葉に再びビクリと震え、そしてぽつり、ぽつり、と思いを吐き出した。

「だってっ、俺・・・幽さんにっ・・・迷惑かけてばっかりで・・・だからっ・・・、別れた方が」

「まって正臣、」

ふとおかしな単語に気が付き、幽は正臣に待ったをかける。

「・・・え?」

「俺いつ迷惑って言った?」

「だって・・・俺男でっ・・・」

「俺は男である紀田正臣が好きだって言ったよね?」

「でもっ、もしファンの人にバレたら幽さんは・・・幽平さんはっ・・・」

「大丈夫。」

「大丈夫じゃないですよ・・・!」

「ううん、大丈夫。」

そう言ってにっこり微笑んでみせた幽に正臣は首を傾げた。












♂♀

『ねえ、正臣くん。人間は実に面白いよねえ?』

朝一の電話に眉根を寄せる。

「何ですか・・・もう俺は貴方に抱かれるつもりは・・・」

『何を言ってるんだい?もう君に用はない。・・・テレビをつけてご覧よ。面白いものが見れる。』

ぷち、と切られた電話に少しイライラしてみたりして。しかし何だか気になったのでイヤイヤながらもテレビの電源をつける。
そして、その途端流れ込んできた音に全ての感覚がジャックされた。

『特報が入りましたのでニュースを中断して中継へと移ります。現場の松山さーん!』

『はい、現場の松山です。現在人気沸騰中の羽島幽平さんが緊急会見を開かれました。あ、幽平さんが現れました!』

パシャパシャと瞬くフラッシュを全身に浴びながらペコリ、と軽く頭を下げた幽は用意されていた椅子に腰掛ける。そして意志の強い美しい瞳がカメラを捉え、凛とした声が響いた。

『私羽島幽平改め平和島幽はただ今心より愛している人が居ます。』

「っ、!」

途端ざわめくマスコミ。そんな彼らを気にする事もなく幽は続ける。

『その人は一般人の男性で、社会的には認められない関係だと言う事は分かっています。しかし、彼自身私を大切に思ってくれていますし、私も彼が生き甲斐と言っても良いほどです。だから』

いつにやら声は止み、静かな空間に幽の声だけが響き渡る。

『誰にも俺が彼を愛している事を否定させないし、彼を貶める事も許さない。俺は社会が認めなくても彼を守る
。』

「かす、かさんっ・・・!」

気が付けば正臣は家を出ていた。


走る走る走る

ただひたすらに走る。


途中で臨也とすれ違った。

「良かったね正臣くん。これで俺から解放される。・・・バイバイ」

すれ違い様に耳に入ってきた言葉と表情が少し気になったが立ち止まる事はもう無かった。


テレビ局へと駆け込む。幾重もの警備に阻まれるがもう正臣は止まれなかった。
と、その時会見が終わったのだろう。幽の黒髪が正臣の視界に入る。


「幽さんっ!」

「っ、正臣?」

まさかの幽の登場に警備員達は一瞬油断したらしい。拘束が緩んだ正臣はそのまま幽の胸へと飛び込んだ。
彼の行動に迷いはもう無い。

「幽さんっ、かす、かさん・・・!」

「記者会見見たの?」

正臣の唐突な行動に驚きながらも微笑を携え抱きしめ返した幽に後ろを陣取っていたマスコミ関係者が沸いた。再びパシャパシャとフラッシュが瞬き、カメラが周り、実況が始まる。
そんな彼らの行動を気にする事も無く正臣は小さく頷いた。

「そっか・・・ごめんね、急にあんな事しちゃって。」

頭を優しく撫でながら謝る幽に今度は首を振る正臣。

「嬉しかったです・・・すごく、うれしかっ・・・!」

言っている途中で堪えていた涙が頬を伝う。
それを優しく拭って幽はやはり微笑んだ。










その映像は全国のお茶の間に放映されていたらしく、翌日正臣は学校で冷やかされる事となる。そして羽島幽平のファンのHPの中でも色々もめたらしいが最終的には幽平の幸せがファンの幸せ、という結論で片付いた。



「大好き。」

「俺も幽さんが大好きです」

「ねえ、結婚しよっか。」

「っ!?!?」

「ずっと側に居て欲しい・・・駄目かな?」

「駄目なわけ・・・無いじゃないですかっ・・・!」
この発言が再びお茶の間を賑わす事となるのだが、それはまた別のお話・・・・











Je vous aimais réellement....

(何でも思い通りにはいかないものだねえ・・・)(・・・俺はきっと不器用なんだろうなあ、特定の一人を愛するってことに関して、ね。)(本当に愛していたんだよ、正臣くん。)






タイトルはフランス語。本当は君を愛していたっていう意味です。臨也の心の声ですね。
何だか予想以上に長くなってしまって驚いています。まさかの3000字オーバーw久々に見たよ3000字w
幽正好きだああ!!
では、雨虹様、正誕リクエスト協力ありがとうございました!






100705



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