ガタン、と扉が開き、正臣はビクリ、と身体を強張らせた。
鍵の音がジャラリと響き、続いてはぁっ、はぁっ、と荒い息。
誰だろう。知っている人だろうか。怖い人だったらどうしよう、などと考えが脳内を飛び交う。そんな間にも近づいて来る足音は止まらない。何とも言い表しようの無い恐怖に手元にあったクッションを無意識にギュッと握りしめていた。
遂に正臣の部屋の前で足音は止み、ドアノブに手がかかる音がする。そしてガチャリ、と部屋のドアが開け放たれた。ひっ、と息を詰めれば風と共に入ってきた綺麗な黒に目を見開いた。
「幽・・・さん・・・?」
「はぁっ、お邪魔、します・・・」
珍しく息を切らせて汗を滴らせている幽に更に目は開かれる。
「えっ、な、何で!?ってか、息、」
「ちょっと追っかけられちゃって・・・」
明らかに大丈夫そうではない事情にアワアワと正臣が駆けよった。
「だ、大丈夫ですか?」
「うん。もう平気。」
「そうですか・・・良かったぁ・・・」
立っている幽に座るように促して、自分もその向かい側に座る。
「ところで今日はどうしてここに?」
現在は土曜日の午後2時。この時間帯、幽は常に仕事が入っている筈なのだ。
それを知っている正臣は首を傾げる。では何故ここに来ているのかを考えているようだ。
「うん。今日は正臣の誕生日だって兄貴から聞いてさ。」
どうしても祝いたかったから。と。
「で、でも今日は撮影って・・・!」
「休んで来た。」
しれっと言い放った幽に驚く正臣。
「休んでって、ええっ!だ、だめですよ!現場に戻って下さい!」
「正臣が教えてくれないのが悪い。」
少し不貞腐れた顔をする彼に愛しさが込み上げてくるものの、自分の為だけに多くの人に迷惑をかけるのだけは避けたい。
「だって教えたら絶対仕事休むじゃないですか」
「それはそうだよ。俺と正臣が付き合ってから初めてのイベントだしね。なのに正臣教えてくれないからプレゼント買えてないし食事の為の予約も出来てない。だからせめて直接口で言いたかった。」
一息に言った幽に思わず圧倒されてしまう。普段はそこまで自分の意見を主張しない幽がここまで言うのは珍しいからだ。
そしてここまでムキになるのは幽が本当に正臣を大切にしている証拠でもあることも正臣はきちんと理解している。
「でも・・・」
それでもやはり申し訳ない気持ちが心に残っているのは確かで、その事を伝えようと口を開くも、幽の方が一歩早かったみたいだ。
「俺は正臣に会いたかった。正臣は違うの?」
「っ・・・!ズルいですよ、幽さんっ・・・」
しゅん、とした顔で言われ、正臣は自分の意見を打ち消さざるを得なかった。
向かい側に座っている幽に前から抱きついて肩口に額を当てて。
「会いたかったに、決まってるじゃないですかっ・・・!」
全ての思いを乗せて言えば、近くにある幽の心臓がドクリ、と跳ねたのに気がついた。
しばらくして腰と背中に回された腕に思いっきり抱き締められる。
「会いたいって思ったら何時でも電話してよ正臣。」
上から降ってきた優しい声に心が落ち着いていく。
「もっと俺にワガママ言って良いんだよ?正臣は俺の大切な大切な恋人なんだから」
「・・・はいっ・・・!」
肩口から顔を上げればすぐ近くに幽の整った顔があって、心臓が早鐘のようにうち鳴る。額の唇の感覚が離れていき、耳元に幽の低音ボイスが流れ込んできた。
「産まれてきてくれてありがとう。大好き。」
その時、ふ、と幽が微笑んだ気がしたのは、正臣の気のせいだったのかもしれない。
初めての記念日
(来年からもずっとずっと)(この日を二人で過ごして行こう。)
ミヅキ様!リクエスト協力ありがとうございました。
幽正とか素敵すぎますはぁはぁマイナーなんていわせませんはぁはぁ
書いてて凄く楽しかったです!ありがとうございました!