ピアノの音が叫ぶ。
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ぴぴ、ぴぴ

携帯が受信を知らせているが何だか嫌な予感がする。

ぴぴ、ぴぴ

しつこいメール。先程から既に10件は着ている気がする。これはもう不幸のメールという認識で良いんじゃないだろうか、などと考えながら携帯の電源を迷わずOFFに。
そうすると先程までの不快音はどこへやら、すっかり静かな部屋を取り戻した。

ごろん、とベッドに仰向けになれば真っ白な天井。
手を目の高さまで持ち上げてグーとパーを繰り返す。

「しずか、だな・・・」

外は生憎の雨で、今日の予定はすべて台無しになってしまった。もし晴れていたら、帝人や杏里と仲良くピクニックに行っている頃だろうにということまで考えてかぶりを振った。雨はしょうがない。六月の天気なんて、女の子の機嫌のように変わりやすいんだ、と思うとなんだか雨が愛しく感じるから不思議だ。

「でも、」

と、手をかざしながら呟く。

「さすがに誕生日に一人は寂しいや・・・」

もう寝よう、どうせ何もしないのならば時間の流れを早く感じられる睡眠をとったほうが身体にも精神的にも良いだろう。そう自分に言い聞かせてゴロンと寝返りを、打てなかった。

「は?」

目を見開けば完全に捕まえられている自分の手。ご丁寧にも自分の指に臨也の指が一本一本絡んでいた。要するに恋人つなぎ、というやつである。

「やあ正臣君。久しぶり?」

平然と人のベッドの上に乗りあがってるこの人。確かこの部屋は二階のはずなのだが、何処から入ってきたのだろうか。

「あん、た、いったい何処から湧いて出た!」

「湧くって・・・俺は虫じゃないんだけどね。」

やれやれ、と肩をすくめるその動作は、眉目秀麗と名高い彼の為にあるのではないかという位様になっていて、妙にむかつく。

「今日は君をイジメる為に来たわけじゃないから安心してよ。」

胡散臭い笑顔と共に言い放たれても信憑性のかけらも無いことに気がつかないのだろうかと思案してみるも、この人の事を理解したくない、という本能的な拒否反応により、苦笑いしか返せなかった。

「信用してないね、その顔じゃ・・・まあ良いよ。行こうか?」

「は、え、何処に・・・?ってうわぁっ!」

実に迅速。俊敏。音速。これらの言葉がぴったりと当てはまるようなスピードで抱きかかえられた。・・・いわゆるお姫様抱っこ、というやつだろう。
慌てて臨也の首に腕を巻きつけ落ちないように工夫すれば、何だかニヤニヤと笑っている彼。

「積極的だねぇ、正臣君?」

「なっ、ちがっ・・・!」

腕を外そうとすればダメダメ!落ちちゃうよ?と声をかけられてしまい、どうしようもない。

「では、お連れいたします、お姫様?」

そして、彼は正臣を抱っこしたまま、そう、抱っこしたまま飛び降りたのだ。窓から。

「ひゃあああああ!?」

気がつけば臨也の足は地面へと無事着地しており、正臣の身体もまた、落下する感覚がなくなっている事に気がついた。

いつの間にか力強く瞑られていた瞳を恐る恐る開きそして、

「え・・・?」

「どうぞ、お乗りください」

見るからに、な高級車が停まっている事に驚く。

「これは・・・?」

「俺の車だよ。まぁ、他人を乗せたのは君が初めてだけどね。ほら、早く乗って」

促されるままに乗れば、臨也は満足げに頷いた。

「そうそう、中にある服着といてね?」

その言葉で助手席の斜め後ろに置いてあった紙袋に気がついた。

「これか・・・って、これ!?」

そして紙袋を開いた途端、顔が青くなる。

「何で女性用のドレス!?」

「あぁ、これから行くところは少々厳しくてね。」

そう言われてはたと気づく。臨也の服が、いつものようなファー付きコートではなく、スーツである事に。

「いやいやそれだったら俺だってスーツでも良いんじゃ・・・?」

至ってまともな事を漏らせば、はぁぁぁぁ、と盛大なため息が聞こえた。

「バカだなぁ、正臣くんは。」

「男の俺が、君ぐらいの男を連れていたら完全に変態呼ばわりされるだろ?」

その言葉に、正臣は更に大きなため息を吐くはめになったのだが。












所変わって高級料理店。
正臣は見たこともない料理の数々に目を輝かせていた。

「うわあああぁぁぁ!美味しそうっすね!」

「そうだね。」

対する臨也はワイングラスに注がれた赤ワインを舐めるように飲む。

「俺、兎の肉とか初めて食べますよ!」

回りに花が飛んでいるようなその笑顔に臨也の顔は綻んだ。次々と運ばれてくる料理を毎度嬉しそうに眺める正臣に、

「可愛らしい彼女さんですね」

とウエイトレスが思わず声を掛けてしまうほどで、臨也は思わず苦笑する。誇らしいけど、なんだか複雑、という言葉がピッタリな表情を浮かべていた。





いつの間にかすべての料理が正臣の口の中に消えていた。
向かいの席には満足げにお腹をさする正臣。

「ありがとうございました、臨也さん。すごく美味しかったですっ!」

「そう。喜んでもらえて嬉しいよ。」

そして正臣の頬に付いたデザートのアイスクリームを指でぬぐいながら囁いた。

「遅くなったけど、ハッピーバースディ、正臣君。」



その時店で流れていた曲がクライマックスを迎えた。











ピアノの音が叫ぶ

(君が生まれた今日という日に祝福を、)















第四弾です!
臨也さんがやっと正臣誕生日企画にログインしました。

では、リク主の方、素敵なネタをありがとうございます。
そしてご協力ありがとうございました!






100620



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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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