2011/07/31 20:28 ※吉国ちゃん好きなんだけど、プロポーズの衝撃がでかすぎた 前に進もうとした所、何故だかつんと服が引っ張られるような感じがして振り返る。 「坊」 するとぎゅっと服の裾を握って坊、だなんて、普段ひょうひょうとしている彼からは到底想像することができないような声が聞こえてきて思わず目を見開いた。 「どないしたん、志摩」 普段ならこういうことがあっても直ぐにまっすぐに見つめてきて、何でもおまへんと言ってへにゃりと笑う彼が目を伏せているのが気になって仕方がない。 「坊」 呼ばれた名前と共にはらり、と落ちる。 これは涙であろうか。 「し、ま」 衝撃だった。 廉造の泣き顔に酷く動揺している自分が、廉造の泣き顔を始めて見たと気がついた自分が。 これだけ長く一緒に居るのだ。 それなのに、今の今まで一度も、彼の悲しみの涙を見たことがなかったということが、どうしても悔しくて仕方がなかった。 廉造が普段から弱みを見せない性質だなんてことは知っている。 勿論、彼の天敵である虫を見たときはそれはひどく怯えた様な涙を流すけれどもそんなもの、涙のうちには入らない。 しかしずびっと鼻を鳴らして目を赤くしてでも、彼は取り繕うのだ。 「知りまへんでしたよ。」 ぼろぼろと止まらない涙をそのままに、眉根を寄せて、それなのに笑う。 へなへなとした笑みで、勝呂を見つめるのだ。 「あん子、よお会いに行っとったけど、そういうことやったんですね」 「志摩、」 「なんや、坊もお人が悪い。許婚おるんでしたらいうてくれたら良かったんに」 痛々しい表情を浮かべる廉造の眉間の皺は深くなるばかりで見ていられない。 「志摩!」 「そんなん、俺完全にお邪魔無虫やんか、」 そしてこの言葉でついに我慢がならなくなった。 「廉造!」 めったに呼ばない名を叫べばびくりと肩を揺らす。 その衝動で離れた服を掴んでいた指のお陰でようやく身体を反転することが出来た。 「廉造、ええか、ちゃんと聞け」 両手で腰と頬をしっかりとホールドしてから思いっきり息を吸う。 「俺が今好いとるんは、お前や、廉造。勘違いすなよ。ええな。同性やさかい結婚は出来へんけど、それでも一等好いとって、守りたいとか、抱きたいとか思うんもお前だけや。覚えとき!」 そして、これ以上ないくらいに声を荒げると、グスグスと鼻を鳴らしていた彼も一瞬何があったのか分からないような表情を浮かべた。 「ぼん…っん、…んっ」 そんな廉造の顔いっぱいに触れるだけのキスを落としてやればやがて滝のように流れていた涙は止まる。 「俺は、志摩のそないな顔見たくて好き言うた訳やないで」 涙のあとを優しく指で拭いながら笑ってやれば、涙のせいで赤くなった鼻よりももっと赤く頬が染まった。 「ぼ、坊のあほ、男前すぎやぁっ」 恥ずかしそうにそう叫んだ彼の顔からは、しかし一切の曇りは取り払われていたのだ。 |