2011/04/30 20:28 「ケホッケホッ……」 すぅっと肺いっぱいに吸い込んだそれがどうにもこうにもあまりに苦くて、思わずむせこんでしまった。 どうしても許容できないもくもくと嫌な煙を上げているそれは、カシムから与えられたタバコ、というものである。 アリババの今までの人生で嗜好品に手を出すことが少なかったため、そのようなものには酷く疎くどちらかといえば苦手としているのだが、大人になれば自然と好むようになる、と彼が言っていたのを思い出して思わず溜息をついた。 何度も挑戦し、何度も勝とうと試みたがどうしても、その煙を飲み込むことが出来ないのである。 「俺だってもう大人だってのに……」 大人という壁に打ち勝てない悔しさにグッと握り締めた拳が座っていた寝台にめり込みいやな音が室内に響いく。 しかしそれを気に留めることもなく、アリババは視線をタバコへと向けたままその黒をただただ眺めていた。 と、がたっという音とともに部屋のドアが開かれよく知った声が聞こえる。 「よぉアリババ、調子はどうだ?」 どうやらこのタバコの持ち主であるカシムが尋ねてきたようであった。 何かいつくしむようなその声に反応して顔を上げると、彼は部屋の中へと入って来てアリババの正面に立つとよく分からない笑みを浮かべながら問う。 「なに、吸えねぇの?」 「苦くて、」 その言葉に自分の不甲斐なさを言い当てられた気がして少し恥ずかしくなりながらも小さく呟けば、彼は少し前かがみになり 「ふぅん」 と言うと、すっとアリババの手を掴み、その指に挟まれていたタバコに口をつけゆっくりと燻らせはじめた。 そして十分に吸い込んだ所でこちらを振り向きそのままアリババの唇へと合わせる。 「んんっ!?んむ、ふっ……んん」 もくもくと上がる煙に埋もれながら唇を割り開き口内へと入り込んできた舌はアリババのそれを絡めとり、口付けは次第に深く、深くとなっていった。 「うむむ、む、は、あっ」 そして十分に唾液を絡ませあい、アリババの息が少しあがった所で唇は開放される。 はっ、はっ、と瞳に涙を溜めながら肩で息をする彼をじっとみつめていたカシムは、アリババの頭へと手を重ねゆっくりと撫でた。 「苦かったけど飲み込めただろ?」 そういえば、とアリババが頷けば、今度はにっこりと笑って手首を離し、ドアへと向かう。 そして、部屋から出る前に一言。 「こうやって俺が慣れさせてやるから焦んなよな」 というと、さっさと部屋から出て行ってしまった。 残されたアリババはそっと唇をなぞる。 それからもう一度とタバコに口を近づけるが、やはり口に含むのが精一杯でそれ以上は無理であった。 確かにカシムに口付けられたときは難なく飲み込めたのに、どうして。 そんな疑問ばかりが頭の中を渦巻いて、そして最も疑問に思うべき点にさえ気がつかずにタバコの火を消したのだった。 |