その忍者くせ者につき

念願の!デート!こうやって二人っきりの時間がとれるのは何ヶ月ぶりだろうか。いつも身を削るような過酷な練習を積んでいる彼の貴重な休日をあたしと過ごしていいものかと恐縮だったが、ここは素直に頂戴するとした。

「裕ちゃん、裕ちゃん、これ見よう!」

ベッドでうつ伏せになりながらロードの雑誌を眺めている裕介の上に馬乗りになる。下から変な声がしたのはお構いなしに、昨日TATSUYAで借りてきたDVDをちらつかせると、見るかぁ。と言ってあたしを退かせた。

「ゲ。」
「どうしたのー。」
「名前これ何借りてきたんだ?」
「何って…ホラー!」

にぱ、とはにかんで見せると「全く…イレギュラーっショ。」と少し笑っていた。あれ?あたしがホラー好きなの言ってなかったかな?あっ始まった。テレビのまえに体育座りして見るあたしと、ベッドの上から頬杖ついて見ている裕介。

「うひゃーゾンビ!こっわー!」
「…。(全然怖そうじゃないっショ)」

後ろのほうでクハ、と彼が笑った気がした。気にせず目の前のゾンビに釘付けになっていると、後ろから緩く抱き締められた。あれ、どうしたの?と聞くと何でもないショ、と言いながら顔を近付けてくる。あ、ちゅーだ。すかさず目を瞑るとピロピロとケータイの着信音が鳴り出した。

「…東堂だ。」
「出ていいよー。」

テレビの音量を小さくしながらそう言うと裕介はいやそうに電話に出た。「まきちゅわぁああん!」「切るショ」「ああっそんな切らないでくれ。」そんな茶番さえも横目で見ていて羨ましく思えた。ロードの邪魔になったらいけないな、と思って電話やメールは控えているから。そんな黒い感情を振り切るように少しだけテレビの音量を上げた。
用件が終わったのかケータイを切ると、また改めてくっ付いてきたりはしなかった。きっと恥ずかしいんだろな。

「あー面白かった。」

DVDがエンドロールを迎えるともそもそと裕介の膝の上に乗っかる。ちゅ、と頬にキスをすると裕介は嬉しそうにして今度は唇にキスしてくれる。何度も何度も唇を重ねて裕介の大きい手が腰から服の中に入ってくる。

ピロピロ

「…。」
「で、出ていいよ、」

その時の裕介の表情と言ったら不機嫌極まりない。ディスプレイに表示された東堂の二文字にさらに不機嫌になると「何だよ。」と低い声で電話に出る。

「さっき言い忘れたことがあってな!今度の土曜日、レースをしよう!」
「何でそんな大事なこと言い忘れるんショ。」
「わっはっは、すまんすまん。」

それからすぐ裕介が電話を切ると、そっぽ向いたあたしを引き寄せる。

「悪りぃ。」
「ちゃんとマナーモードした?」
「したっショ。」

お利口さん、と裕介を押し倒すとそこからは甘い甘い二人だけの時間。裕介の枕元で、メール受信中の文字がディスプレイに浮き上がっていた。


'140213 pike
ちなみにメールの内容は「邪魔してすまんな!」


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