君の事がよく理解できない
登れる上にトークも切れて更にこの美形ときた。天は俺に三物を与えたのだが、東堂尽八、俺はたった今人生で最も衝撃を受けている。
「うるさい」
高校三年目の春。周りの皆も新しいクラスに馴染めた頃、俺はもともと仲が良かったクラスメートと10分の休憩時間に他愛もない話をしていた。もう一度言う、ちゃんと10分の休憩時間にだ。なのに隣の席のこの女、苗字はこの俺を鬱陶しい目で見た挙句俺の話し声を騒音呼ばわりしたのだ。物心ついた時から今日まで、女子という女子から「うるさい」と言われたことは一度たりともなかった。
「うるさいとは何だ!ちゃんとこうやって休憩時間に話しているではないか」
「もうちょっと声の音量落としてくんない」
本日二度目のタライが頭に降ってきた。今日の俺は重傷だ。この出来事をまず巻ちゃんに電話して新開それから荒北にも 話しておかねばならん。これが俺と苗字の出会いだった。
それにしてもこの苗字という女子とは初めて同じクラスになって初めてその存在を知った。容姿は特別美人でもなく、派手なほうではなかった。可もなく不可もなく、どちらかと言うと俺にとっては地味なほうだった。そんなある日のこと、HRで今期初めての席替えをした。くじを引いてギーギーと机を引きづって移動するとなんと隣が苗字ではないか。「よろしくな!」と声を掛けると意外にも「うん、よろしく」と律儀に返事が返ってきた。
「苗字というのだな、俺は東堂尽八だ」
「知ってるよー有名だもん」
やはり、やはりか。所詮女子か。これだけの美形だ、苗字も内心俺に見惚れていたに違いない。この間のアレはきっとアレだ、俺と話すきっかけが欲しかったのだろうな。
「ほんと、これのどこがいいんだかー」
「…はっ?」
聞き間違いだろうか。あと見間違いだろうか。鼻で笑ったような顔をしている。聞き返すと、先ほどと同じ言葉が返ってきた。
「…お前は本当に女子か?俺は女子人気ナンバーワンの東堂尽八だぞ!」
「その自意識過剰なとこが無理」
なんだとおおお!思わずそう叫ぶと周りの何人かがこっちを見たが気にしない。だからうるさいって、そう言って窓の外に目を向ける苗字に腹が立って、わざと視界に入る位置に立っては思っていることを全て話してやった。先生が教室に入ってきたので渋々席に着く。授業の準備をしていると、いつまでも鞄の中をごそごそと漁っている苗字が目に入った。
「忘れものか?」
「教科書忘れた…」
あからさまに落ち込んでいる苗字を見て、自分の机を彼女のほうへ寄せた。教科書忘れたのだろう?と言って見せると、苗字はびっくりしてそれからありがとう、と微笑んだ。なんだそんな顔もできるではないか。そう言うとふい、と顔ごと逸らされてしまった。
苗字は俺の中で一番仲のいい女友達になった。というより、俺がただ他の女子より気を許して会話をすることが多くなっただけで、苗字は相変わらず俺に興味なさそうにしているが。しかし最近女子に告白されることが前よりも多くなった。返事は毎回決まっていて、丁重に断るが、苗字さんと付き合ってるかと聞かれることがしばしばあった。
「最近な、女子に苗字さんと付き合ってるのかとよく聞かれるのだよ」
「ふーん、あ、そ」
「相変わらず興味無さそうだな。一度俺と付き合ってみらんか、そしたら苗字も俺の魅力に気付くぞ!」
「…えっ」
一瞬びっくりしたような表情をしたが、冗談だと笑い飛ばすとその表情は不機嫌でどこか悲しそうな顔に変わった。
「やっぱ東堂嫌いだわ」
そう言うと教室を出て行ってしまった。俺は何か彼女の気に障るようなことを言ってしまったのか。しばらくして帰ってきた苗字にすまない、と謝ると別に、と素っ気ない返事だったが、俺は怒らせてないと受け取ってまた違う話を切り出した。
「ねぇ、東堂って女好きなの?」
俺の話していたこととは全く関係ないことを聞いてくるものだから少し戸惑ったが、苗字から話をふっかけてくるのは珍しく、俺は気分が上がった。
「それは、まあ、男だからな。周りの女子に褒められて嬉しくない男はおらんぞ」
そう答えると、苗字はふぅん、とまた興味無さげな返事をした。
「ただ苗字と話しているのが一番楽しいな!」
笑顔でそう言うとチラリと見た苗字の顔がみるみるうちに赤くなっていった。俺は理解し難いその光景に思わず「は?」と声に出してしまって、苗字は「やっぱ東堂嫌いだわ!」とまた教室を出て行ってしまった。意味がわからん。何故あんな表情をしたのか。照れていたのか?いやそんな要素はなかったはず。色々考えてた挙句ハッとして、今の言葉は冗談ではないぞ!と叫ぶと廊下のほうでわー!と叫ぶ苗字の声が聞こえた。
'140208 pike
超がつくほど鈍感な東堂
'140722 修正
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