はじける恋

今日も部活が終わって部室のイスに少し乱暴に座る。他の皆がクールダウンをしている中、一人早めに抜けてきた。口を大きく開けて飲みかけのベプシを一気に流し込むと炭酸の抜けた甘ったるい味が口内に広がる。この味はあまり、好きじゃない。

「絶対ベプシよりコールだって」
「あァ?」

背後から声がしてふと視線を上げると、ウチのマネージャーの苗字がいた。プシュと缶を開けて、まるで見せつけるかのように目の前でコールを飲み始める。ゴクゴクと喉を鳴らして飲む様は、今俺が欲しているそれで、ただじっと羨むように見つめていた。

「それにペットボトルより缶のほうが美味しく感じない?」
「それじゃ足りねェだろ。あとコールは炭酸が強すぎんだよ」

「はぁー?強いほうが良いじゃん刺激あって!ベプシ甘すぎてあまり好きじゃない。俄然コール派だね」
「ブァーカ、ベプシに決まってんだろ」
「コール!」
「ベプシだっつってんだろ!」

なんともしょうもない理由で言い合っている中、クールダウンを終えた東堂と後輩達が楽しく会話を交わしながら部室に入ってきた。

「オイ、誰か炭酸持ってねェ?」
「すまんがオレは炭酸は飲まないのだ」

チッと軽く舌打ちしてお前らは、とでも聞くように後輩のほうを見ると、持ってないです、と首を振って申し訳なさそうに答えた。…アー、別に責めちゃいねェけどよ。

「ん」

苗字が飲みかけのコールを差し出してきた。いる?と聞いたのでベプシ派の俺は即座に断ろうとしたが、俺の身体がいや喉が今すぐに炭酸を欲しがっていたので素直にそのコールを受け取った。すかさず流し込むと炭酸に刺激されて喉が潤う。

「っはー美味ェー」

サンキュー、と残りのコールを返すと、苗字はにこっとはにかんで部室を出て行った。残りの部員が来てむさ苦しくなる前に着替えを済まそうとジャージに手を伸ばす。しばらくすると新開や福チャン達がこっちに向かってきて、後ろでは先ほどから東堂が後輩とくっちゃべっていた。あ、そうだと俺のほうに視線を向けると何故か嫌な予感がした。

「…時に荒北、さっきのアレは苗字ちゃんと間接キッスがしたくてジュースをもらったのではあるまいな?」

わっはっはと愉快そうに笑って俺の肩に手を乗っける東堂。

「ブァカ、んなわけねェだろ!」

鬱陶しいその手を払いのけて、ワイシャツのボタンを全て止め終わる前に鞄を持つと足早にその場を去った。

「…見た?今のカオ」
「図星…だな」
「冗談のつもりだったのだが。荒北も隅に置けないな!それにしてもあんなに照れた顔は初めて見たな!」


最悪だ、最悪だ、絶対バレた。今ごろ部室では俺のことを茶化しているに違いない。そう思うと腹立たしい気持ちと羞恥心でおかしくなりそうだった。

「あ、荒北」

校門に着くと苗字が立っていた。その手にはまだ飲みかけのコールが握られている。

「何してんだよ」
「友達待ってるの」

あっそ、と返すと我ながら素っ気ないなと思った次の瞬間、急に俺の胸元に寄ってきた。

「ボタン、止め違ってるよ」

慌てて出て来たからボタンなんて適当に止めた。止め直してくれたのでサンキュ、と言うとまた笑われた。

「あはは、荒北顔真っ赤!照れてやんの!」
「…!うっせェ!」

こいつにはバレてほしいのにきっとバレてないんだろう。世の中全く上手くいかないように出来ているもんだな。俺は火照った顔を手で覆いながら、なんだかんだ良い一日だったと嬉しくなった。



「名前お待たせ!さっき話してたの荒北君?」
「うん!」
「…やけに嬉しそうじゃない?」
「べ、べつに?」


'140206 pike
'140714 加筆修正


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