赤く熟す

じりじりと太陽が肌を焦がすような暑い日が続く。汗を拭いながら翔の家に遊びに来たはいいものの、肝心の本人が不在では意味が無い。だからいつもケータイを持ち歩けと口煩く言ってるんだ。今日も多分デローザを乗り回して京都の街を徘徊しているのだろう。翔がケータイを持ち歩かない理由はただ一つ。ロードには邪魔だから。だから、何度言っても聞く耳を持たない。いつ帰ってくるかも分からないので今日は大人しく帰ろうかと決心をしたが、おばちゃんからのスイカがあるよ、の一言にまんまと引っかかって甘えて家にお邪魔することにした。

そこ座っとき、指差された縁側ら辺に腰掛けていると、おばちゃんがきれいに切り分けてくれたスイカを持って来てくれた。手も洗った、お礼も言った、いただきますもきちんと言うと、シャクシャクと赤く熟れたスイカにかぶり付いた。よく冷えていて美味しい。種を皿に出すのについ夢中になっていると、玄関のほうからこちらを覗いてすごく嫌そうな顔をしている翔が見えた。



「出た」
「出たんはそっちや翔!またケータイ持って行かへんかったやろ。いつも言うとるやん」
「…どうせ大した用事やないやろ、何しに来たん」
「別に何も?」


さらに眉間に皺を寄せて顔を歪めた。でもケータイは持っとき、そう言うとハイハイと聞き流された。デローザを壁に寄り掛けて、私の横に腰掛ける。その距離1メートル程か、幼い頃から馴染みのある友人に置く距離ではない。もっとこっちおいでよという言葉と裏腹に私が近付けば、キモッとまた距離を取られた。

「翔の分もあるよ、スイカ。…あ、だめ!ちゃんと手洗って来なさい!」
「ほんまうるさい子ぉやわ」

長いため息をつきながらもちゃんと私の言う事を聞いて、庭からそのまま家へ上がってはのそのそと洗面所に行く。よく水滴を拭かないまま戻ってきてまた縁側に腰掛けると、さっきよりも少しばかり距離を詰めてきた。

「ほんまこの暑い中よう運動するわ」
「寝てばっかやと太るで名前ちゃん」
「大丈夫!夏はそんな馬鹿食いせぇへんから」
「…スイカもう3個目やけど」

スイカは、別。水分たっぷりでさっぱりしとるからいくらでも食べられるわ。ぺろりと1つ平らげると次にはもう手を伸ばそうとしない翔は「腹壊すで」とプツプツ口から種を吐き出して私のほうへ飛ばしてきた。

「…っ!汚い!やめや!」
「分かったらもうスイカは終わりや」

最後に長い舌を伸ばしてスイカを下げられた。ふと目に行ったのはさっきから気になっていた、庭に置かれた小さめのビニールプール。きっとスイカを冷やしていたのだろう。まだ氷がいくつか残っていて、触るとひんやりして思わず声を上げた。大声でおばちゃんの許可を得ると翔にうるさいと怒られたが、そんな事気にも留めずにいそいそとそのビニールプールを足元に引きずって、サンダルを脱ぎ捨て素足を着水した。笑みが零れるほどとても気持ちがいい。ぱちゃぱちゃと足を遊ばせると翔がまじまじと見てきたので仕方なくどうぞと半分のスペースを譲ってあげた。結局はこうして肩が触れるくらいの距離まで近づくと少し気分が良かった。

「あぁ冷たい気持ちいい」
「名前ちゃん近い、退いて」
「イヤですー後から来て何言うてるん」

ぱしゃっと足の裏を返して翔のほうへ水を掛けるとピギッと声を上げた。何度聞いても可笑しいと思うその声。笑うと無言で水を掛けてきて仕返しをされ、太もも辺りまで水で濡れるとすっかり体温も冷えた気がした。

「ずうっとこんな事してたいわ」
「無理やろ」
「…ふふ、そんな事言わずにさぁ」

この先何年も、と付け足すとそうやねと意外なことに肯定された。そのまま他愛のない事を話しながら、どさくさに紛れて翔の後ろにあるスイカに手を伸ばすと素早く手を掴まれて「腹、壊す、で」とそれはもう恐ろしく睨まれた。


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9さんへ「御堂筋と夏を満喫」


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