ギラギラに往生

※大学生設定



「小鞠ってセックス上手そう」

私はガラステーブルに肘をついて、真正面の小鞠にそう言うと爽やかな笑顔で「は?」と威圧するかのような反応が返ってきた。
大学から課せられた二人一組で取り組む形式の課題。いつも行動している女の子五人組の中から、じゃんけんが致命的に弱い私はまんまと犠牲になり、仕方なく小鞠とペアを組むことにしたのだ。
小鞠とは大学入ってからの付き合い。もともと美形に目が無い私は、入学早々に小鞠に目をつけ近付いたは良いもののそのルックスと中身の格差に愕然とした。特に筋肉がどうとか熱弁してきた時、あれは引いた。まぁそれがきっかけと言うか、そんなわけで小鞠を色目で見る事はなくなったんだけど。大学二年目。小鞠の家にたまに入り浸るようになって、くだらない会話をするほど気を許す存在になるとは正直思ってもなかった。


「女子がそんな事言うものじゃないよ」
「女子と思ってないくせに」
「…。何でそんな事思ったの?」
「否定してよ!…えー、だってマッサージ上手いし。手つきエロいし」

これ?と長い指を揃えて揉みしだく仕草をする小鞠に、冷たい視線を向けながらそれそれと大きく頷いた。前に一度だけ頼んでマッサージをしてもらった事があるけれど、すぐに中断された。あれ、もう終わりかなと不思議に思っていると、名前の筋肉はサイアクだとか何だとか散々文句を言われてからは頼んでもしてくれなくなった。

「小鞠って彼女いないの?」
「いたらキミを家にあげたりしないよね」
「あ、そこはきちんとしてるんだ」
「…ねぇ、ボクを何だと思ってるの?」
「えー変態?」
「筋痛めてあげようか?」

笑顔でまた例の仕草をするものだから、ここは大人しく謝っておいた。しばらく止まっていた手を再びパソコンのマウスに戻す。たまにちらちらと覗く小鞠の様子を窺うと、何やら手書きでスラスラとボールペンをうごかしているようだった。何書いてるのかな、綺麗な字だな。何となく気になっていると「また手が止まってるよ」とこちらを見向きもせずに言った。この男はいくつ目が付いているのか。慌ててまたパソコンに目を移すと、今度は視界の端で綺麗な髪が揺れる。何度も横目で見ては、悟られまいと必死にパソコンの画面に集中した。


「ねぇ、名前はそんなにボクとセックスしたいの?」


エンターキーをずっと押したまま小鞠の顔を見る。次に何とも間抜けな声を出したのは私のほうで、慌ててパソコンに目を戻すと改行ばかりになった画面を元に戻した。

「男の子がそんな事言うのはどうかと思うよ」
「それは使い方、間違ってると思うけど。名前は一体どういうつもりなの?」
「何が」


パタン、と私の方向にパソコンを閉じられた。思ったよりも近くに小鞠の顔がある。こうやって真正面からじっと見つめたことはそういえば今までになくて、居心地が悪くてまた元の距離を保とうと体を後ろに引いた。それを見かねた小鞠はグイッと半ば強引に私の手を掴んでさっきよりもずっと近くに引き寄せる。微笑んでるけど、目が笑っていない。一体どういうつもりなのかは小鞠のほうだ。そう心の中で言い返すが、この視線を浴びては口に出せなかった。

「こま、」
「ボクの気持ちを確かめてるの?」
「…え」
「好きって言わせたいの?」


小鞠が何を言っているのかさっぱりわからなかった。掴めない男だなぁとは前々から思っていたけど、出会って一年経った今でもそう。小鞠が私に恋愛感情があるなんてこれっぽっちも思ってなかったはずなのに、否定の言葉はすぐに出て来ない。そう、なのかな。私は小鞠の事が好きで、こうやって何度も確かめてたのかな。自分の気持ちと向き合うには時間が足りなすぎて、思考回路は滞っていた。

「いつまで経っても名前が何を考えてるか分からない」
「さっきからボクの事、ずっと見てくるし」
「つまりはね、そういう事なんでしょ?」

小鞠がよく喋っている。まだ働いていない頭を必死に使って、えっと、とかそれはとか歯切れの悪い言葉を紡ぐ。一旦逸らした目をまた小鞠に戻すと、ばちりと見事にこちらを向いていた。

「それは、小鞠は私が好きって…そういうこと?」
「本当にボクに言わせたいんだね」
「…いや、そういうつもりじゃ」
「好きだよ。ずっと前から好きだよ」


今まで揺るぎなく私を見ていた小鞠が、今ほんの少しだけ照れた表情を見せた。どきどきと騒がしく動き出す心臓。今度は歯切れの悪い言葉すら出て来なくて、ひたすらに黙っていると「何か言ってよ」と珍しく焦ったように催促してきた。


140804


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